昆虫は、卵、幼虫、蛹、成虫と種によってそれぞれステージは異なるものの、
越冬をしなければ種を存続することはできません。
冬季の材割経験者ならご存知のとおり、凍った材のなかのクワガタ幼虫は
体内に凍結防御物質・グリセリンを蓄え、凍死を防いでいます。
自動車の冷却水に入れる不凍液みたいなものですね。
はたして成虫の場合も、同じでしょうか?
資料をみると、北海道で採集されたアカアシクワガタ成虫の記録がありました。
やはり微量のグリセリンが検出され、約−18℃まで凍結しないそうです。
(「虫たちの越冬戦略」朝比奈英三著 北海道大学図書刊行会)
また、昆虫は日長(昼間の長さ)を感じることによって季節の変化を知り、越冬行動を
開始するという説も有力。夜行性のクワガタもそうなのかわかりませんが、とりあえず
今回は、一番重要なファクターと思われる「気温の変化」に着目して、ヒラタクワガタの
野外個体観察例から、越冬行動開始の条件について考えてみます。
【ヒラタペアの動向と越冬開始までの気温変化】
月日 | 最高気温 | 最低気温 | 観察時気温 | 観察時刻 |
9月26日 | 23.1℃ | 17.5℃ | 20.8℃ | 20:00 |
9月30日 | 23℃ | 15.1℃ | 17.3℃ | 21:00 |
10月5日 | 21.4℃ | 12.2℃ | 17.4℃ | 19:00 |
10月7日 | 18.4℃ | 12.7℃ | 14.1℃ | 07:00 |
【ドキュメント】
9月26日は、♂♀とも活発に樹液を吸っている。越冬への栄養補給か?
朝の最低気温が17℃くらいに下がっても、日没後数時間20℃以上をキープしていれば、
十分活動できることを裏付けている。
その後、最高・最低気温ともにゆるやかに下がっていく4日間のうちに、20cmほど下の乾いた洞に
移動して静止。さらに5日間、おそらくこの洞内にて静止状態が続いたものと推測される。
この間、コクワは同じ木の樹液場で活動中。
最終目撃時刻となる10月5日19時から7日7時までの36時間のうちに、本格的な越冬行動を起こした
とみられる。この間の気温変化を下記のグラフで追ってみると・・・。
【10月5日19:00から7日7:00までの気温の変化】
最終目撃時(19:00)の気温は17.4℃。その後15℃前後に下がったまま、朝を迎えた。
曇天ため日中も気温は上がらず17℃以下。日没後さらに下降し13℃を割り、翌朝7:00に
♂♀とも不在を確認した。
これらの事実をもとに推測すると、
@17℃以下の状態が数時間〜30時間続いたことが、越冬場所へ移動する「引き金」となった
A通常では動きがかなり緩慢になる低温時に、かなりの距離を移動することが可能である
また疑問点として、
@日中に移動することもあるのか?(特に曇天の場合など)
A♂♀が呼応して、ほぼ同時に(同場所へ)移動する習性があるのか?
B実際にどのような場所(地中、朽木の中、下など)を探したのか?
C湿度や日長の変化、食用となる樹液成分の変化など、他の要因はどう影響したか?
など解明すべき点も多々ありますね。
願わくば、まさに移動の瞬間に遭遇したいものですが・・・。