ラウレリンドレナン −出版情報その1−


 ここでは、我が国で出版されたトールキン自身の著作を紹介します。私の独断と偏見に満ちたコメント付きですが、悪しからず。一部絶版のものも紹介していることを最初にお断りしておきます。
 なお、高橋誠氏による貴重なデータが鈴木朝子と高橋誠の部屋にあります。ぜひご覧ください。
 
入手難度をで示してみました。ただし、根拠は単なる私の勘です。
……………………そこいらで売られている。
★★…………………数軒店を回れば見つかる。
★★★………………注文さえすれば入手できる。
★★★★……………入手にはかなりの根性が必要。
★★★★★…………不退転の決意で探すしかない。
★★★★★★………持ってる人を拝み倒せ。強奪は犯罪ですよ。
★★★★★★★……洒落。「七つの星」にしたかった。それだけ。


『ファーザー・クリスマス サンタ・クロースからの手紙』(評論社刊)★★★(2007年 9月23日)
 
2006年10月20日初版。
 以前に出版されていた「絵本」版には収録されていなかった年の分や、収録はされていても省略されていた部分まで補った、いわば完全版といった趣の本である。
 (出版から1年近く経って、ようやく入手した私。ファン失格です。)

『指輪物語「中つ国」のうた』(評論社刊)(2004年2月12日)
 「POEMS FROM THE LORD OF THE RINGS」の邦訳。『指輪物語』中で歌われた詩を取り出し、それらに解説を加えた本。改めて読んでみると、なんと魅力的な詩の多いことか。アラン・リーのイラストが彩りを添えている。好著である。

『指輪物語』(評論社刊)(2004年1月25日補筆)
 1992年にトールキン生誕100年を記念して、固有名詞などの見直しを行った上で「新版」として発行されたものが、3種類の異なった形で出版されている。「旧版」はハードカバー版も文庫版も同じく全6巻で、 ページ数を始めとして内容にも違いがなかった(と思う)が、「新版」は版毎に少しずつ違いが見られる。

A 愛蔵版(全3巻)★★★
 イギリス本国において生誕百年を記念して出版された、アラン・リー挿し絵による全1巻本に準拠したもの。非常に豪華であるが、重すぎて読書には適さないというべきか。まさにコレクターズアイテム。

B 普及版(全7巻)★★
 「旧版」に造本、価格とも最も近い形のもの。挿し絵も「旧版」と同じく、寺島竜一氏のものを使っている。「追補編」だけを第7巻として独立させているが、この第7巻がどれだけ売れたか興味深い。私自身としては、「追補編」がいちばん面白かったりするのだが……。

C 文庫版(全10巻)
 1992年当時、普及版を元に「追補編」をばっさりカットた形で全9巻組で出版。 しかし、1冊あたりの厚さにあまりに大きな差があり、敢えて9分冊にした理由が今ひとつはっきりしなかった。そのためか一部ファンの間で文庫版が9、普及版が7、愛蔵版が3……。これはエルフによって生み出された魔法の指輪の数を意識したものに違いない。ということは、近い将来『超限定・全1巻一つの指輪バージョン』が出るということだ。」なんて噂が流布していたりした。そんな 噂話も、初版刊行から10年以上を経た2003年12月、ついに追補編が刊行されて全10巻構成となったことで、ようやく真のジョークとなったようである。それでも「全1巻本日本語訳」をこの目で見てみたい気がしてならないのだが。まずは貴重な追補が手軽に読める状況になったことを素直に喜ぼう。

※ 「新版」と「旧版」における違いで、固有名詞の改訂以外に注目すべき点は、新版の「追補編(旧版では「追補篇」と表記)」が、よりオリジナルに近い形となったことである。具体的には「E 書き方、綴り方」と「F 第三紀の諸言語と諸種族,翻訳について」が初めて翻訳されたこと。また、固有名詞便覧(索引)が付されたこと。以上の2点である。

『妖精物語について ファンタジーの世界』(評論社刊)★(2003年12月20日)
 この本の新版。下の『妖精物語の国へ』の項に示したとおり、
同一書籍の本年度2回目の邦訳となる。訳者は旧版と同じく猪熊葉子氏。実際にはこちらのほうが「本家本元の再刊」といった位置付けになるわけだ。翻訳の雰囲気は『妖精物語の国へ』とはずいぶん異なっている。個人的にはこちらのほうが好みに合っているが、どちらが原書のニュアンスをより正確に伝えているかについては語る資格がない。識者の指摘を待ちたい。
 内容としては「妖精物語とは何か」「ニグルの木の葉」「神話の創造」の3編が収録されており、旧版より充実したものとなっている。

『終わらざりし物語』(河出書房新社刊)★(2003年12月13日)
 待望久しかった『Unfinished Tales』の邦訳。
この本が日本で出版されたこと自体が奇跡といってよいほどの快挙である。中つ国がトールキンの頭脳の中でどのように構築されていったかを知る手がかりとなる記述で溢れている。『指輪物語』に対する理解が深まること間違いなし。日本語でしかトールキンの世界に浸れないファンにとって、本当にうれしい翻訳である。
 なお、翻訳者の中にはネット上でお世話になった方も何人かいらっしゃる。改めてお礼を申し上げておきたい。(ついでに『中つ国の歴史』の邦訳もお願いしちゃっていいですか?)
 それにしても、こうした本が日本で日の目を見ることになった陰には、やはり映画の成功があったのは間違いない。それだけでも映画の制作者に感謝せねばならないだろう。

『新版 シルマリルの物語』(評論社刊)★(2003年6月1日)
 待望の新訳。
通読したところ、非常に読みやすくなっているように感じた。同時に、改めてトールキンの創り出した世界の壮大さに圧倒されてしまったりもした。やはり『指輪』ファンならば必読の書である。細かなミスなどもあるようだが、そのあたりはこちらのサイトに詳しい。ご参照願いたい。
 なお、訳が改まっただけではなく、本の版型も一新されている。サイズが一回り大きくなり、旧版で2分冊されていたものを1巻にまとめ直してある。巻頭に付けられたトールキンの書簡も含めて、ほんとうにうれしい新版である。

『妖精物語の国へ』(筑摩書房刊)★(2003年6月1日)
 絶版になって久しく、復刊が待たれていたこの本の新訳版である。訳者は杉山洋子氏。旧版にはなかった「神話を創る」と題する長詩や「ビュルフトエルムの息子ビュルフトノスの帰還」という詩劇を併録。そういう意味でもたいへん貴重な本。必携の1冊といっていいだろう。
 ただ、この本、いささか値段が高過ぎる。200ページそこそこの文庫で950円+税というのはどんなものなのだろう。そのうえ、評論社からも同書の邦訳が出るとのアナウンスがなされた。(上記『新版シルマリルの物語』の前書きに明記されている。)そちらはおそらくはハードカバーでの出版になるであろうから、それを待つという人も多いのではないだろうか。(コレクターは懐が寂しくなるばかりだ。)

『サー・ガウェインと緑の騎士 トールキンのアーサー王物語』(原書房刊)★(2003年3月2日)
 本書の著者は一応トールキンとなっているが、
厳密に言えばトールキン自身の作品というわけではない。イギリス中世に創作された物語や詩をトールキンが現代英語に翻訳したものが元本となっている。こうした仕事は、言語学者であるトールキンにとっては専門の領域である。同時に、彼の文学的才能が発揮された作品ともいえるわけで、ファンにとっては貴重な邦訳といってよいと思う。この邦訳を手がけたのが山本史郎氏であるのがなんともいえないところだが。
 内容について言及するだけの語学力も資料もないし、それはおそらく別の方がきちっと検証してくださるだろうから、ミーハー・ファンらしく、ざっと眺めただけで気づいたことを挙げておこう。
 この出版社の常なのだが、気配りというか常識というものが全く欠けている。カバー・イラストにはジョン・ハウが元本用に描いたものが流用されている。それなのに、イラストレーターの名がどこにも見当たらない。そればかりか、どうやらイラスト自体が「裏焼き」されているようなのだ。英語の本と日本語の本では書籍の開きが逆になってしまうために取られた措置だとは思うが、ちゃんとジョン・ハウの了解を取ってあるのだろうか?
 帯においてもずいぶんなことをしている。同書店から出ているトールキン関係の既刊本の紹介で「ファンタジー画集 『指輪物語』の世界」や「ファンタジー画集 トールキンの世界」といった本が掲げられているのだけれど、両方とも著者名がトールキン自身になっている。こういういい加減さがトールキンファンの顰蹙を買っているのに気づかないあたりが大きな問題であると思う。

『オリジナル版 ホビットの冒険』(岩波書店刊)★★(2002年12月10日)
 トールキン自身によるカバー・イラストや挿画(カラーも含む)を収めた愛蔵版である。訳者は従来と変わらず瀬田貞二氏である。ただ、活字が横組みになっており、趣は今までのものとはずいぶん異なっている。解説や訳者の後書きなども一切なし。表紙も含めてシンプルな造りといえるが、それがかえって好ましい印象を与えてくれる。
 映画のヒットのおかげで日の目を見た企画であろうが、ファンとしてはうれしい1冊だ。

『仔犬のローヴァーの冒険』(原書房刊)★★(1999年6月16日)
 奥付けの日付けは1999年6月20日となっている。
 原書は1998年、イギリス本国で突然発表されたものらしい。1920年代にトールキンが息子たちのため書き表した作品とのことだ。トールキン死後に発表された多くの遺稿集と異なり、一応「トールキンの最終原稿をそのまま公刊した」という体裁になっている。
 内容的には非常に素朴な味わいのある佳品である。「中つ国」の物語との直接的なつながりはないものの、ガンダルフを連想させる魔法使やスマウグに連なる竜などが登場する。また、アマンを思わせる“妖精の国”についてほんの少しだけ言及されていたりもする。
 原題は「ROVERANDOM」。主人公である犬の呼び名だが、放浪者を意味する「ROVER」と手当たり次第にという意味の「RANDOM」とが組み合わされたものであるようだ。
 なお、翻訳者が「かの」山本史郎氏であり、例によって上滑りのギャグをあちこちでかましてくれている。原書が手許にないので、詳しいことは述べにくいが…。いくらなんでも「パアマン」はやめて欲しかったなあ…。原文中にある(らしい)言葉遊びの雰囲気を伝えたいのはわかるけれど、この方、お世辞にも洒落のセンスがよろしいとは申し上げにくいのだ…(-_-;)

『ファンタジーの世界 ―妖精物語について―』(福音館書店刊)★★★★★(1999年3月12日追記)
 トールキン自身によるファンタジー論。残念ながら絶版で、私も未読。是非手に入れたいのだが……。
 本ページの開設に際して上のように記した。それから2年以上を経た今日、全く思いもよらぬ形でこの本は私の手許にやってきた。このページをお読みいただいた「指輪の仲間」のおひとりから無償で譲っていただいたのだ。なんとお礼を申し上げてよいか分からない。「こおり」様、深く感謝いたします。

『クリスマス・レターつき サンタ・クロースからの手紙』(評論社刊)★★★(1998年3月1日・6月1日追記)
 
1995年に「絵本の部屋・しかけ絵本の本棚」シリーズの一冊として出版されていたもの。昨日知人から現物を見せられるまで、そんな本が存在していたなんて知らなかった。下に紹介してあるものとは違ってトールキンが子供たちに渡したときの「封筒」まで再現されている。慌てて購入に走ったが、当然のごとく書店にはない。丸善書店のインターネットショッピングでも検索にすら引っかからない。どうなってるのだ?どうしても欲しいぞおっ!
 と、大騒ぎをしていたが、著者名では検索できないのに、書名では検索できることが判明。漸く入手に成功。全部で10通の手紙が封筒ごと再現されている。イギリス本国では1990年に刊行されたもののようである。手紙(封筒)の現物はボドレー図書館(私達が1992年に訪れたボドレアン図書館と同じか?)に保管されているとのこと。それにしても、こんな父親に育てられた子どもは幸せだと思う私である。

『ホビット ゆきてかえりし物語』山本史郎訳、原書房刊)
 1997年11月に刊行された「The Hobbit」の新訳。今回は瀬田貞二訳と異なり、「第3版」からの翻訳である。美しい装丁である。私も「マゾム館」に収納している『THE ANNOTATED HOBBIT』を底本としており、資料としても貴重。ただし、独自色を出そうとの意欲が空回りしているように思える場面も多々見られるように感じた。「はなれ山」に資料を載せたので、興味のある方は参照されたい。

谷口陽一郎氏より以下の3点について情報をいただきました。この場を借りて感謝の意を表したいと思います。(1997年10月5日着信)
『農夫ジャイルズの冒険』(吉田新一訳、都市出版社刊)★★★★★★
 「J.R.R.トーキン選集T」とあり、続刊が予告されていますが、どうなったかは知りません。都市出版社は私の一番大切な本、ジョイスの『フィネガン徹夜祭』を出した出版社ですが、どうなったのでしょう。1972年刊、まだトーキン!です。吉田氏はまた、この作品を研究社の英米児童文学選書に原文に注釈を付ける形で紹介しています。注解書は他にも『樹と葉』、『妖精物語について』などが出ているようです。

「ニグルの木の葉」(重光真友子訳、歳月社刊『幻想と怪奇』5号)★★★★★★
 猪熊氏の訳と違い、ですます調です。

「友情と孤独と−『トールキンの手紙』を読む」(種田又右衛門編訳、幻想文学界出版局刊『幻想文学』12号)★★★★★★
 『手紙』からの編訳です。この号の特集は「インクリングズ」で、他に15編ほどが収録されています。

『指輪物語』(評論社刊)
 1992年にトールキン生誕100年を記念して、固有名詞などの見直しを行った上で「新版」として発行されたものが、3種類の異なった形で出版されている。「旧版」はハードカバー版も文庫版も同じく全6巻で、内容の違いもなかった(と思う)が、「新版」は少しずつ違いがある。

A 愛蔵版(全3巻)★★★
 イギリス本国において生誕百年を記念して出版された、アラン・リー挿し絵による全1巻本に準拠したもの。非常に豪華であるが、重すぎて読書には適さないというべきか。まさにコレクターズアイテム。

B 普及版(全7巻)★★
 「旧版」に造本、価格とも最も近い形のもの。挿し絵も「旧版」と同じく、寺島竜一氏のものを使っている。「追補編」だけを第7巻として独立させているが、この第7巻がどれだけ売れたか、興味深い。私自身としては、「追補編」がいちばん面白かったりするのだが……。

C 文庫版(全9巻)
 普及版を元に、「追補編」をカットしたもの。最近の読者の多くは、この文庫版を初めて手にしていると思われる。しかし、なんとしても「追補編」の割愛は惜しい。

※ 「新版」と「旧版」における違いで、固有名詞の改訂以外に注目すべき点は、新版の「追補編(旧版では「追補篇」と表記)」が、よりオリジナルに近い形となったことである。具体的には「E 書き方、綴り方」と「F 第三紀の諸言語と諸種族,翻訳について」が初めて翻訳されたこと。また、固有名詞便覧(索引)が付されたこと。以上の2点である。

『ホビットの冒険』(岩波書店刊)
 今となっては『指輪物語』の序章として読まれることの多い作品。しかし、子供向けファンタジーの傑作の名に恥じない名作である。ハードカバー1巻本
★★、岩波少年文庫版(上下2巻)の他、「岩波世界児童文学集」の第6巻★★★なども刊行されている。1999年11月には「物語コレクション」と題するシリーズに収録された。
 なお、日本語訳の底本となったのは「second edition」であるが、これはトールキンが『指輪物語』出版に際して、整合性を持たせるために書き直したものであるとのこと。
 それとは全く別問題ながら、日本語翻訳版には大きな矛盾が存在している。お気づきの読者も多いと思うが、ビルボとなぞなぞ勝負をするときのゴクリの挿し絵が巨大に描かれ過ぎているのである。ゴクリはもともとホビット族に近い存在であり、ビルボと体格的な差はないはずなのである。

『シルマリルの物語』(評論社刊)★★
 『ホビットの冒険』、『指輪物語』とともに、トールキンの中つ国三部作のひとつに位置づけられる。トールキン自身としてはこの壮大な神話こそが描きたかったのであろうことはあまりにも有名である。ただし、現実にはトールキン生前には出版されることがなく、子息のクリストファー・トールキンの編集によって日の目を見たといういわくつきの作品。
 1996年に「新装版」が出版されたが、内容の変更があったかどうかは未確認である。

『トールキン小品集』(評論社刊)★★
 「農夫ジャイルズの冒険」「星をのんだかじや」「ニグルの木の葉」「トム・ボンバディルの冒険」の4編を収めた短編集。最後の「トム・ボンバディルの冒険」は、16編の詩(うち何編かは『指輪物語』本編にも収録)を収めた詩集とでもいった趣の作品。『指輪物語』中でも特異な光彩を放つトム・ボンバディルのファンという人も多いのではあるまいか。なお、評論社からは「手のり文庫」版として、この作品を2分冊にしたものが出版されているようだが、私は所有していない。

『サンタ・クロースからの手紙』(評論社刊)★★★
 トールキンが、クリスマス・レターとして、20年間にわたって我が子に送り続けた絵入り手紙のうち、1925年から1939年(1940年?)までを収録したもの。トールキン独特の水彩画を味わうことができる。

『ブリスさん』(評論社刊)★★★
 トールキン自身の挿し絵による絵本。キリンとウサギを合体させた「キリンウサギ(girabbit)」という奇妙な動物が愉快。トールキン自筆の原文も味わい深い。

『ビルボの別れの歌』(岩波書店刊)★★★
 灰色港からの旅立ちを前にしたビルボが作った詩に、『指輪物語』だけでなく『ホビットの冒険』の名場面の挿し絵が添えられている絵本。 小品であるが、非常に味わい深い作品といえるだろう。ファンならば持っていて損のない本である。挿し絵はポーリン・ベインズ(C.S.ルイスの『ナルニア国物語』シリーズなどの挿し絵で有名)。
 トールキン生誕百年を記念して出版されたもの。