―源頼朝登場
源頼朝 あぁ、困った困った。
―源義経登場
源義経 ちょっとちょっと。そこを歩いておるのは頼朝あにきやねぇかな。ずいぶん悩んでおんさるみたいやが、一体どうしたんやなも。
頼 あ、誰かと思ったら義経か。実はなも、今年の美濃町祭りが11日と12日になっておるのは知っておるやろ。
義 あたりまえやねぇかな。おかげで岐阜で働いておる人も花みこしをかつげるてって、喜んでおったなも。
頼 ところが喜んでばっかりもおられんのやて。わっちらの町内の仁輪加、あの台本はわっちが書くことになっておるんやけど、祭りが早よなったおかげで3日前になってもまだ台本ができあがらんのやて。
義 そんなもん、祭りの日程はずっと前から決まっておったんやで、それに合わせて先に書いておけばええんやねぇかな。第一、今頃仁輪加の台本を書くようでは、今年もわっちんたの町内は努力賞だけやなも。少しはどこかの町内を見習ってくんせぇ。あそこは年がら年中仁輪加のネタばっか考えておる人がおるで、祭りにええ仁輪加が上演できるんやなも。
頼 おめぇは弟のくせに年上の兄きに向かってようもそんだけポンポンポンポンと言えるもんやな。けど当たっておるだけになにも言い返せんやねぇか。
義 情けねぇ兄きやなも。そんならええ仁輪加の台本が書けるように清盛という先生を紹介したるで、勉強しておんせぇ。
頼 あぁ、あの平家の清盛くんかぁ。わっちゃあの人あんまり好きやねぇけど、ちょっとも仁輪加ができんのやでしかたねぇなも。ちょっと行って教えてもらってこよかな。
義 そうと決まったらさっそく行こめぇ。ごめんやす。平家の清盛さんはおんさるかな。
―平清盛登場
平清盛 祭りで忙しいときにござったのはいったい誰やな。
頼 わっちやなも。源頼朝と義経の兄弟やて。
清 あぁ、これはこれは源氏のご兄弟が鎮西入道平清盛の家へようきてくんさった。まぁあがりんせぇ。
義 いや、今日は急ぎの用事で来たもんで、ここでご無礼させてもらうなも。実はかくかくしかじかというわけで、うちの兄きに仁輪加の作り方を教えてやってくんせぇ。
清 そうかな。そんならまずネタをさがしに街を歩かなあかんなも。桜を見に小倉公園へいってもええし。そうや、気分転換に小倉公園の田楽でも食べてみたらどうやな。
頼 気分転換かな。なるほど。
清 それから卯建の町並みを歩いてもええなも。水琴窟で有名な今井家の向かい側の家の卯建が修理されておってきれいになったんな。
義 あれは東市場の池田瓦店が修理した卯建やで、いかにもきれいやなも。兄き、ちゃんとメモをとっておかなあかんなも。
清 それから信州屋で銘菓「水琴窟」を買って、登美家で「梅山」を買って、時代軒で花見だんごを買って、小川屋で甘栗せんべいを買って、それからっと。
頼 おまはん、お菓子を買ってばっかおるけど、裏でなんかもらっておんさるんかな。
清 いやいや、そんなことはあらへんて。ほんでも六鹿の蒸し朴葉ずしもおいしいなも。
義 ええかげんにしんせぇ。おまはんは食いしん坊万歳かな。とにかく、わっちんた急いでおまはんとこへ来たもんで、財布を持ってきとらんのやて。
清 そんなこと心配しんでもええて。わっちにまかしてくんせぇ。
頼 本当かな。それはありがたい話やなも。そんなら喜んでおともするなも。
義 ちょっとあやしいなぁ。いくら仲良くしてもらっておる平清盛さんのいわっせることでも、こんだけいろんなものを買ってもらう話は信じられんなも。
清 なにを疑っておんさるんや。お菓子も寿司もわっちがごちそうするで安心しんせぇ。
頼 そうやて、平家の人に限って他人をだますようなことはしんさらへんて。
義 いやいや、絶対にこれはこのまま話だけで終わってしまうなも。
頼清 そらまたどうしてやな。
義 おごる平家のことならなぁ。
頼清 どうじゃな。
義 春の夜の夢のごとしやわな。
エッキョー
作者のつぶやき 頼朝義経兄弟は、実際に兄弟にやってもらいました。平家物語の素養がないとわからない落しですが……わかりました?
―中国の人登場
中国の人 あぁ、疲れた。やっと着いたなも。おーい、ボンさぁん、こっちこっち。ここがあいとるで、ここにゴザを敷いてくんせぇ。
―インドの人登場
インドの人 ちょっと待ってくんせぇ、チンさん。おまはんた中国の人は日頃から自転車に乗っとんさるで足が丈夫やけど、わっちんたインド人は座ってばっかおるで、そう速よ歩けぇへんのやて。
中 おまはんたインドの人がのんびりし過ぎなんやなも。そんなことやでいつまでたっても牛より速よ歩けんのやて。
イ あ、おまはん、牛を侮辱したなも。神聖な牛をばかにするとは許せんなも。こら、あやまれ。
―美濃の人登場
美濃の人 これこれおまはんた、見たところ明らかに遠くの国からおんさった人のようやけど、せっかく小倉公園へ来とんさるんやで、もっと仲良く花見をしなあかんやねぇか。
中 これはこれは、地元の人に迷惑をかけてまったかなも。実は小倉公園の桜は中国でも有名でなも、万里の長城か小倉の桜かというくらいなんやて。
イ そうやなも。インドでも、♪ガンジス川で体を清めて小倉公園で花見がしたい、コリャコリャ、なんて歌があるくらい有名で、それでわっちんた二人が連れ立ってはるばるやってきたようなわけやなも。
美 そうかな、それがどうして喧嘩になるんやな。
中 成田空港に到着して、名古屋まではスイスイとこれたんやけど、そこから先が時間ばっかりかかってちょっとも来れやへなんだんやなも。それでちょっとイライラして喧嘩になってまったんやて。
イ どうして東京から名古屋まで新幹線で2時間足らずで来れるのに、名古屋から美濃町まで2時間もかかるんやな。あの道路のはしっこをチンタラチンタラ走る電車はなんとかならんもんかなも。
中 あんなのろまな電車に乗ったおかげで美濃に着いたらまぁ桜が散ってまっとるやねぇかな。どうしてくれるんや。
美 そうやなも。いわれてみや中国やインドからはるばるござったのに、まぁ葉桜やなも。よっしゃ、いっぺん市長さんとこへ行ってなんとかならんか話をしてみるわ。一緒についてきてくんせぇ。
イ そんなら一緒にいかしてもらうなも。
美 着いた着いた。ここが市長さんのおんさる美濃市役所やなも。市長さぁん、ちょっと聞きたいことがあるで、でてきてくんせぇ。
―美濃市助役登場
美濃市助役 なんやったな。今日は市長さんはちょっと出張してござるなも。
美 あれ、おまはんは助役のキーチャン田中さんやねぇかな。実はかくかくしかじかというわけで、ここにござる中国人のチンさんとインド人のボン・カレーさんを市長さんに会わせようと思って来たんやなも。
助 そうかな。せっかく来てくんさったのに市長がおらなんですまんなも。ほんでも仁輪加やからてってそういっつも市長さんの都合がええとは限らんし、たまには助役も登場しんと市民に忘れられてしまうでなも。ボンさん、わっちが美濃市助役のキーチャン田中やなも。よろしく頼むんな。(と名刺を渡す)
イ わっちゃ漢字がわからんでチンさん、見てくんせぇ。
中 なになに、「美濃市助役、キーチャン田中」。プッ、こりゃおかしい!
助 なにがおかしいんやな。
中 キーチャンさん、中国語では「助役」というのは「助平な役人」のことやなも。
助 そんなら中国では市長の次に偉い人はなんていうんやな。
中 そんなもん、「副市長」というに決まっとるやねぇかな。あたりまえのことやなも。
助 なぁるほど、いわれてみやあたりまえやなも。中国の人は頭がええなも。
美 それはさておき、助役さん。この2人も困ってござるんやが、東京から名古屋まではすぐに来れるのに、名古屋から美濃町までの交通機関はなんとかならんもんかな。
助 そのことかな。それならおまはんも知ってござるとおり、あとちょっとしたら「中濃新線」というのができて、名古屋からまっすぐに美濃町まで電車が走るようになるんやなも。そうなったら東京から美濃町まであっという間やなも。
イ 本当にそんなもんできるんかな。
助 大丈夫やなも。それに、わっちんたが要望しとったとおり、中濃新線を新幹線と直通にするアイデアが採用される見通しがたったもんで、そうなればまぁ東京からでも博多からでもそのまんま美濃町まで乗ってこれるなも。
美 助役さん、いくらなんでもここまで新幹線をひっぱってくるのは無理なことやねぇかな。
中 そうやて。中国四千年の常識から考えてもそんなこと無理やて。
イ インド人もびっくりやなも。
助 おまはんた、人のいうことはもっと素直に信用しなあかんて。大丈夫やでまかしてくんせぇ。
中イ美 そらまたどうしてやな。
助 さぁ、新しい新幹線のことならなぁ。
中イ美 どうじゃな。
助 のぞみも通るわな。
エッキョー
作者のつぶやき 落しとしてはたいしたことないです。後日名前の出てきた助役本人が、商工観光課でこの台本をコピーしていったらしい。出演記念に保存するのかな?ところで、中国語で助平な役人を助役というのはウソですが、市長の次席の人を副市長というのは本当です。日本でも20年近くたってなぜか副市長という呼び方に変わってしまいました。