不随意筆ふあんの外面 その4(1977年11月)


 またまたしつこく登場です。自分でも完全に食中毒を起こしておりますが、この稿のために卒論をはるかにしのぐ労力を費やし、大学ノートを2冊もつぶした愚かな男の心を憐れんで、どうか破り捨てるのだけはゴカンベンを…。(※ このころからしばらく「手塚マンガの登場人物たち」と題した手塚作品の登場人物・スタアリストを作り続けていました。大学ノート4冊分になったところで中断してしまっています。そのうち公開することがあるのでしょうか?しかし、全部をパソコンに入力するのは大変すぎる…。)
 さて、前回から今回までの間に新たに私が所有することになった手塚治虫作品は、
『紙の砦』『三つ目がとおる』第6巻(新書判)。その他に全集の8冊、すなわち、『リボンの騎士』第2巻、『ロック冒険記』第2巻、『メタモルフォーゼ』『ハトよ天まで』第1巻、『アポロの歌』第2巻、『三つ目がとおる』第2巻、『ライオンブックス』第1巻、『来るべき世界』第1巻…。
 まずは、新顔のこれらの中から、私に衝撃を与えた作品を一つ二つ紹介させていただきます。
 
『紙の砦』――自伝的短編集。表題作のほか、『すきっ腹のブルース』『ガチャボイ一代記』『四ッ谷快談』『ゴッドファーザーの息子』等を収めている。中で必見は『紙の砦』『すきっ腹のブルース』『ガチャボイ一代記』の三作。ま、解説はやめておきましょ。ただ、『紙の砦』のあのラスト…。
 さて、次の衝撃は
『来るべき世界』。うれしいことに、これオールスタア登場なのです。そればかりか、ケン一とロックという二人の主役級少年スタアが共演している、実に珍しい作品。
 ここで独白。私大きい顔して手塚治虫のこと書いてきましたけれど、実はこんなことする資格ないんです。何故って、
『ロストワールド』『メトロポリス』『来るべき世界』という初期三部作――これを読まずして手塚を語れず――を『ロストワールド』しか読んでないんですからして…。講談社よ、はやく『来るべき世界』第2巻と『メトロポリス』を出しとくれ。(※ 現在は全集その他で誰でも読むことが可能なSF三部作。未読の方はぜひとも一読されることをお勧めします。これらが戦後間もなく書かれたという事実を我々は忘れることはできません。)

8のおまけ
(※ この章も手塚治虫作品のスタアたちをイラスト入りで解説したもの。著作権に抵触すると考えられるのでカット。ああ残念…。)

9 余談デゴンス
 『火の鳥』が映画になります
『ブラック・ジャック』が映画になります。両方ともアニメーションではありません。
 『火の鳥』は、現在「黎明編」
を市川昆監督、谷川俊太郎脚本で撮影中とか。この谷川さん、テレビアニメ『鉄腕アトム』の主題歌を作詞したぐらいですから、相当の手塚治虫ファン(※ 朝日ジャーナル臨時増刊1989年4月20日号「手塚治虫の世界」22〜23ページに、谷川俊太郎の興味深いコメントがあります。)だとは思っていたんですが、まさか脚本にまで手を出すとは…。噂によりますと、その脚本中で、あのヒョウタンツギが乱舞、スパイダーも出演するようになっているとか。ア
ニメーションでなく、実写でどうやってやるつもりか知れませんが、ま、それはカントクさんに任せておきましょう。(※ この映画ははっきり言って失敗作でありました。シリアスな場面をアニメーションで、マンガチックな場面を実写でという試みは評価できたのですが。天弓彦を演じる役者が突如石坂浩二から草刈正雄に変更になってしまったあたりに問題の根源を感じます。)なお、「未来編」は手塚プロがアニメーションで制作するそうです。(※ 最終的には『火の鳥2772 愛のコスモゾーン』というオリジナルシナリオ作品として発表されることになりました。)

『ブラック・ジャック』のほうは今年中に封切り(※ 封切り題名は『瞳の中の訪問者』でした。)らしいですが、カンジンのB・Jをなんと獅子泥鰌(※ 宍戸錠のこと。当時「ナンセンスクイズ」が流行していたんです。覚えている人は相当のお歳。例えば、「問題 電線に雀がとまっていた。それを鉄砲で撃ったが、落ちてこなかった。何故か?」「解答 根性があったから。」てな具合。「獅子泥鰌」もそうしたクイズの問題の一つでした。)なんかがやるそうでガックリ…。(※ それでもテレビドラマ化のときの加山雄三よりはよかったというのが正直な気持ちです。)

10 アセチレン・ランプの火影
 ランプの嘆きの声が聞こえる。もっとかっこよく生きたい。もっと二枚目をやりたい…と。あの名優アセチレン・ランプの惨状は、目を覆いたくなるようなものである。ろくな仕事をさせてもらってない。時代遅れで片づけてしまうのはあんまりかわいそうである。なんたって戦後生まれなのだから。
 『ロストワールド』時の栄光をランプは忘れられないし、手塚治虫も忘れてはいないのだろう。だから、ランプは嘆き、手塚治虫は嘆かせる…。
 
『ヒョウタンナマズ危機一発』では、突如現れたビッグXに追われて逃げながら、「だからこんなデタラメなマンガに出るのはイヤだといったんだ。」と呟き、『三つ目がとおる/暗黒街のプリンス』では、仲間のハム・エッグといっしょに和登さんに蹴っ飛ばされながら「イヤナ役だ」と嘆き、『ロック冒険記』の鳥人と人間との交渉場面では、多くの人間代表(これが全部手塚マンガのスタアたちなんだが)に加わって後姿だけを見せるという出演に甘んじ、『ブラック・ジャック』のあるエピソード(残念ながらまだ単行本には入っていない)(※ 秋田文庫版第9巻所収「約束」と題するエピソードである。)では死体の役で出演させられて大いに憤慨し、『鉄腕アトム/十字架島』(朝日ソノラマ版)の前書きでは「軽々しくオレを使うな!」と手塚治虫に抗議しに訪れ、逆に自分の出生の秘密を知らされてファイトをなくしてヤケ酒を飲み…。それでも気力をふりしぼった彼は、『ザ・クレーター/墜落機』で、戦死した若者のために頭の例の部分に、ローソクに替えて線香を立てるという性格俳優らしい名演を見せ…。
 そんな不遇の彼に対して、手塚治虫がわずかに報いているのが、『ガチャボイ一代記』。アニメーション完成を祝って集まったスタアたちと作者が手をつないで歩く場面。アトム、サファイア、ロック、ヒゲオヤジらの主役に混じって、脇役に過ぎないランプ氏が踊っている…。

以下次回