Review



天外魔境 電脳絡操格闘伝

天外魔境

ジャンルアクション
発売日1995年7月25日
開発元ハドソン
発売元ハドソン
定価8,800円
購入日--
購入店名--
購入価格(税抜き)--

シナリオ--
グラフィック6
アニメ(画質)9.5
アニメ(動き)9
サウンド6.5
ゲームバランス5.5
操作性8.5
ゲーム性4
総合5.5

 「バトルヒート」に続く,アニメバトルシステムを採用したゲームの第 2 弾。PC エンジンを初めとして各機種で発売されている人気 RPG「天外魔境」シリーズのキャラクターを利用した,キャラクターゲームだ。画質は「バトルヒート」よりも数段よくなったが動きに関してはおとなしく,全体的に地味な雰囲気になってしまった。


 既存の格闘ゲームにおける操作性の煩雑さ(キャラクターごとの必殺技の出し方の違いなど)を排除するために,本作品では操作性の統一が図られた。各キャラクターごとにおける操作性の違いはいっさいなく,かつ入力コマンドが簡略化されているために,複雑なコマンド入力ができなくていままで格闘ゲームを敬遠していたユーザ(たとえば筆者など)にとっては気軽に遊べるゲームといえるだろう。
 しかし,操作性を簡単にしたということは,反面それだけゲーム性が失われてしまったということでもある。一度操作方法を覚えてしまえばどのキャラクターでも使うことができるのは嬉しいが,キャラクターごとの違いといえば戦闘時に表示されるアニメくらいのものだ。各キャラクターは通常攻撃のほかに技と術の双方を使用でき(術のほうが技よりも強力),さらに技と術には 3 段階の強さがあるのだが,キャラクター間のそれぞれの段階における攻撃方法による優劣はほとんどといっていいほどない。たとえば,キャラクター A の AA という攻撃方法がキャラクター B には有効でキャラクター C にはまるで通用しないといった展開があれば緊迫したゲーム展開が期待できるのだが,ラスボスを除いて本作にはそういった要素はない,あるいはあったとしてもゲーム中に意識することのない程度のものでしかないようだ。以上についてまとめると,基本的に "通常攻撃<技 1 <技 2 <技 3 <術 1 <術 2 <術 3 " のフラグしか存在しなく,キャラクターごとの優劣は存在しないといったところか。

 もちろん,実際のゲーム展開はもう少し複雑だ。攻撃の防御および回避,術/技の使用による技ポイントの減少,挑発による技ポイントの回復...。本文を読んでいるかぎりではそんなにひどいゲームではないように感じられるかもしれないが,実際に遊んでみると粗が目立つ。なぜか? 前述の攻撃方法に関する問題もあるのだが,一番の原因は戦闘における(一種の)ターン制の採用だろう。最初にあるキャラクターが何らかの行動(攻撃でも防御でも何でもよい)を起こすとする。対するキャラクターは一定時間以内に相手に対する対応をとらなければならない。たとえば攻撃に対しての防御や反撃などだ。そうして一連のコマンド入力を受け付けた後,戦闘過程がアニメーションで表示されてゲームは次のターンのコマンド入力待ちに入る。一連の過程はシームレスに連続して処理されるため,一見するとリアルタイムに進行している錯覚を受けるが(とくにCPU戦においてその感覚は顕著だろう。黙っていても何らかのリアクションを起こしてくれるから),実際にはそれぞれの戦闘が完全に独立したターンをとっているのだ。二人プレイ時に,双方とも何もせずじっとしていればこの言葉の意味を実感できるだろう。
 結果として,相手の行動開始を待ってからそれに対応したコマンドを入力するだけで,比較的楽に勝つことができる。「初心者に優しい」との売り文句(たしか本作の発売時にこのような意味の宣伝文句が使われていたはずだ)も,これでは「ゲーム性に欠ける」と置き換えたほうがよいのではないだろうか。

 天外魔境というゲームのキャラクターを使用したことにも疑問を感じる。同作のキャラクターを使った格闘ゲームには NEO・GEO 用の作品もあるが,こちらは格闘ゲームとしてきちんと完成されている。反面,従来の RPG で確立されたキャラクター像からは若干かけ離れてしまった部分もあることは否めないだろう(実はこのあたりのことについては正確なところはわからない。NEO・GEO 版を筆者は遊んだことがないのだ)。本作ではキャラクターの個性を尊重したのはよいが,少々その点を強調しすぎてしまったようだ。たとえば相手の悪口をいうだけや大泣きをするだけでダメージを受けるような攻撃方法には,元ネタを知っていてさえ釈然としないものを感じてしまう。これでは天外魔境ファン以外には受け入れられるはずもない。天外魔境というソフトがどれほど人気・知名度があるのかは見当がつかないが,少なくともドラゴンクエストのように「名前だけならば誰でも知っている」作品でないのは確かだ。PC-FX という狭い枠の中でさらに狭い分野に絞ったような作品は商業的にも失敗だったのではないか? ただ,この点についてはいま(1997 年末)だからいえることで,発売当時(1995 年夏)はまさか FX の市場がこれほど小さなものになるとは思わなかったであろうし,ましてやゲームが企画されたのは少なく見積もってもそれより数ヶ月は前のことだろうから,批判は筋違いかもしれない。ハドソンソフトとしては,本作である程度の盛り上がりを作り出した上で本命の「天外魔境III NAMIDA」を発売するつもりだったと好意的に見るのが正解か。PC-FX での発売が絶望的となったいまではどうでもいいことかもしれないが...。

FX

 以上,ゲームとしては厳しい意見が続いたが,技術面から見た場合について少しだけ触れておこう。ご存知のとおり,PC-FX というハードはほかの 32/64 ビット機と比較して機能的に劣っている点が多い。唯一優れているはずの動画再生機能も,最近では他機種でのソフトウェア再生技術などの向上がめざましく,だんだんとそのアドバンテージを失いつつある。が,考えてみてほしい。FX の最大の特徴は果たして本当に秒 30 フレームのフルカラー動画再生機能だったであろうか。否。FX の神髄は CPU を介さずに独立バス経由で動画を扱えることだったはずだ。つまり,それだけ動画の制御がしやすいマシンだといえるだろう。しかし,ふたを開けてみれば発売されるソフトのほとんどがオープニングおよびエンディング,あとはゲーム中の要所要所でムービーが再生される程度のものという体たらく。これでは他機種のソフトと全然変わらない。その上,発売されているソフトの本数が少ないものだから,よほどの物好き以外はハードを購入するのもためらわれるという最悪の状況に陥ってしまっている。
 その点,本作はどうだろうか? 入力されたコマンドに応じて小気味よく動画再生が切り替わるのは,FX の機能をうまく生かしたゲームシステムといえる。もっとも近年,他機種のゲームでも,たとえば RPG やアドベンチャーゲームの戦闘シーンで戦闘アニメが挿入される作品が増えてきているが,CD-ROM からのロード時間がどうしても気になってしまう。その点本作の場合は−−初期の「バトルヒート」のときにもそのレスポンスのよさに驚かされたものだが−−非常にラグが少なく快適なゲーム展開を楽しめる。まさに FX ならではのソフトといえるだろう。というより,「バトルヒート」と本作を除いては FX の機能を生かしたソフトは皆無といってもいいかもしれない。こういうソフトを作れるメーカーがもっと FX に参入してくれるとありがたいのだが,現状ではそれも難しいのだろう。そもそも,本作の生みの親であるハドソンソフトからして FX 市場からは撤退したも同然なのだから。
'98/1/29


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