本シリーズの中で重要な役割を担う存在のひとつに「ダイモン」がある。
ここでは、それが作品中でどのような定義づけをなされているかを整理しておきたい。
例によって、本編に関する「ネタばれ」を含む内容になっている。参照にあたっては留意されたい。
ダイモンに関する覚書
A ライラの世界の住人(人間)ならば、全て持っている。
B ダイモンはひとりに対してひとつである。
C ダイモンはさまざまな動物(昆虫などを含む)の形を取る。
D ダイモンの性別はその持ち主である人間と対をなす。(若干の例外がある。)
E ダイモンは持ち主やその他の人間と言葉を通じたコミュニケーションを図ることができる。
F ダイモンとその持ち主は、ある距離以上に離れることはできない。(これも例外がある。)
G 持ち主が幼いころのダイモンはさまざまな動物に姿を変えることができるが、思春期を迎えると(持ち主の意図に沿って)ひとつの形に定まり、二度と形を変えることがなくなる。
H ある特定の職業の人間のダイモンは決まった動物の形を取る傾向がある。(たとえば、執事や召使いのダイモンがイヌであったり、よく訓練された軍隊の兵士のダイモンがオオカミであったりする、というように。)
I 他人のダイモンに直接的に手を触れることは非常に礼を失した行いである。しかし、ダイモン同士が互いに触れ合うことやダイモンが他の人に触れることは問題にはならない。
J 持ち主の死はダイモンの死を意味する。同じように、ダイモンの死はそのまま持ち主の死に直結する。
K 持ち主とダイモンを無理矢理切り離すことで、ある種の猛烈なエネルギーを生み出すことが可能である。
補足1
Aに関しては、シリーズの途中から次のような事実が明らかになってくる。すなわち、ダイモンを所有するのはライラの世界の人間ばかりとは限らない、ということである。むしろ、誰もがダイモンを持っているにもかかわらず、それに気づいていないだけである、というような結論づけが行われている。
さらに注目するべきは、『神秘の短剣』のp33で「我々の世界」の住人であるウィルがライラのダイモンに関する発言を受けて発した言葉である。彼は「ダイモン」を「デーモン」、すなわち「悪魔」に置き換えて理解しようとしたのだ。このあたり意味深長であるといえるだろう。
(「デーモン」には同じ発音の異なる単語が存在する。「daemon」と「demon」である。私は原書を持っていないため該当部分に直接当たっていないのだが、「ダイモン」のスペルそのものには前者が用いられているようである。前者には「守護霊」というような意味がある一方で、後者と同じく「悪魔、悪鬼」の類の意味もある。この二面性が「ダイモン」というネーミングの由来になっているのかもしれない。)
補足2
Eに関連して、コールター夫人のダイモン「黄金のサル」だけは、あれほど出番が多いにもかかわらず、言葉を他者に向けて発したことがないように思う。私が見落としているだけなのかもしれないが、もしそうでなければ、これは作者の意図であると考えるべきだろう。(とある方からの指摘で、『琥珀の望遠鏡』p279においてこのサルがコールター夫人と会話していることが確認できた。お知らせいただいた方に感謝。それにしても無口なダイモンであることは間違いない。2004年1月8日追記)
思えば、このダイモンには固有の名前も与えられていない。
補足3
FGHのいずれにもかかわる話として、『黄金の羅針盤』のp224に「ダイモンがイルカとして形を定めてしまったために死ぬまで陸に上がることができなくなってしまった水夫」の例が挙げられている。
補足4
Fの例外の代表的な存在が、いわゆる「魔女」である。『琥珀の望遠鏡』中の記述によれば、彼女たちは試練に耐えることでダイモンと遠く離れる力を身につけるというのだ。そして、「魔女」でなくてもそのような力を持つことはできるのである。