2009年8月16〜18日 |
常緑樹に覆われた亜熱帯の石垣島へ。
今までに培われた採集感覚、ノウハウが全く機能しないので、
異世界にポーンと投げ込まれて、目を白黒させる「不思議の国アリス」状態に。
石垣島は先島諸島に位置し、台湾までわずか270キロ。
最高峰は500mほどだが奥深い山並みはなく、海岸から林道を山に登っていくと、
ネットリと絡みつくような海風が吹きあがり、ジャングルを揺らしている。
海岸はマングローブが多いが、ちょっと標高を上げると人跡未踏のスダジイの林が広がる。
少し森の中に入ってみると、ものすごい速さで幹を這い上がるトカゲがうじゃうじゃいた。
キノボリトカゲらしい。
▲幹が白っぽいのがスダジイ。太い木は少ない。
▲ヒカゲヘゴ。シダの化け物で、まるで三畳紀やジュラ紀にタイムスリップしたような風景だ。
いちいち写真を撮っていないが、島をレンタカーで2周しながら、山岳林道を走った。
ちょっとした駐車スペースがあるとそのたびに車を降り、道端のジャングルをのぞいてみたが、
かなりの頻度でパイナップルの切り身が入ったザルが地面に置かれていた。
ここでの採集方法は、トラップもしくは灯火だ。
木に括りつけるタイプのトラップと違い、地面に置かれたザルのパイナップルは、山の神に捧げる供物のようにも見える。
集落は海岸沿いの平地にあるため、あまり森林がなく道路沿いの街灯にはほとんど虫が飛んできていない。
むしろ、大きなヤシガニがうろうろしていた。
いっぽう、山岳林道には街灯がないので、自前で用意するしかない。
わざわざ本土から灯火セットを持ってくるほど本気でもなかったので、町のスーパーで電池式の蛍光灯と
シーツを買った。
▲懐中電灯と兼用の蛍光灯はたったの6W。ラジオ付きの非常用のもの。
▲ロケハンの結果、ここを灯火ポイントに。
レンタカーのリアにシーツをかぶせ、ルーフに蛍光灯を立てただけという、超お手軽なシステム。
マグライトを地面に置き、シーツを照らした。
こんな即席の装置で効果があるか半信半疑だったが、19時半ごろ点灯。
発電機の音がないので、水を打ったような静寂と漆黒の闇に包まれる。月は出ていない。
20時過ぎ、小型のコガネムシを思わせるような、か細い羽音を響かせ何かが飛来した。
なんと! 関東では、あれほど発見するのに苦労したネブトではないか。
▲もちろんオキナワネブトなのだが、本土とどこが違うのかさっぱりわからない。
▲さらに21時過ぎ、サキシマヒラタが飛来。
▲側溝に、シュルシュルとうごめく気配を感じた。サキシママダラという無毒のヘビらしい。
22時ごろに撤収。山岳林道ではサキシマ♀2、ネブト♂だけだったが、本格的な灯火システムなら、さらに成果があるだろう。
帰りの街灯では、リュウキュウノコ♀を見つけた。
……熱帯から日本列島まで分布を広げていったいくつかの陸の道、海の道。
この先島ルートはオオクワが通らず、ヒラタが普通種でコクワが希少種。
沈降と上昇を繰り返しながら、ガラパゴス化していく生態系。
付け焼刃の探索ではあったが、亜熱帯島嶼は小粒であっても懐が深い。
疑問の点と点が結ばれ、やがて線になっていくインセクトロードを楽しむべきフィールドなのかもしれない。