お約束すぎるギャグやハプニングを盛り込みながら,笑いあり,涙あり,そしてせつなさ炸裂で展開するシナリオに,あなたは一体何を感じるのか? そして,最後に迎えるファーストキスはどんな味? そんな気恥ずかしくも甘酸っぱい,青春の香りが漂う恋愛ゲームがついに登場した。こんな文章を臆面もなく書いている筆者のほうがよほど恥ずかしいって? 大きなお世話だ!
微笑む君に,ファーストキス
ゲーム内容は,高校卒業まであと一月を残すばかりとした主人公が,自宅の転居に伴い卒業までの短い期間を両親の古い知り合いである織倉家に居候して過ごすというもの。ひょんなことから一緒に暮らすことになった織倉家の若き (?) 未亡人,弥生と二人の娘,香奈と真奈美を中心に同級生や後輩たち,さらには街で出逢う女性たちとの恋愛模様を織り交ぜながら,最後に素敵なファーストキスを体験するというのがゲームの最終目標だ。もちろん,女性たちとの出逢いの場面や要所となるイベント,クライマックスとなるファーストキスの場面などでは,FXの本領を発揮する高品質のアニメーションシーンが挿入される。
ゲームシステムはきわめてオーソドックスなものとなっている。ゲームは原則的に 1 日単位で進行し,起床から通学,放課後までの間はアドベンチャーモードと称して自動的にストーリーが展開する。必要に応じて,現れた選択肢の中から適当なコマンドを選んでいけば OK だ。
放課後になると今度は移動モードとなり,高校のある秋月市内を歩き回って女の子と出逢い,会話を交わしていくことになる。状況に応じて会話時に選択肢があらわれるが,この点についてはアドベンチャーモードと同様だ。一定数のイベント (基本的には女の子と 2 回出逢うか,または特定のイベントが発生した場合はその 1 回のみ) をクリアすれば夜になり,さきほどと同様にアドベンチャーモードとなって 1 日は終わる。ゲームデータのセーブは就寝時か,移動モード時に画面左上の 「秋月市マップ」 と表示されているところにカーソルを持っていくことで行える。実は筆者は,最初の 3〜4 回程度のリプレイ時,いっこうにこの移動モード時のセーブに気がつかず,ずいぶんと不便に感じたものである。
久々の秀作
ここしばらく,「アニメフリークFX」 シリーズなどの一部の例外を除いて,FX のソフトは非常に完成度の低いものばかりが発売され続けてきた。アンテナの調子が悪く,ゴーストだらけのテレビ放送を VHS ビデオの 3 倍速で録画したかのような画質のムービー,10 年前のファミコンゲームのようなグラフィック,激しく音割れを起こす PCM による音声...。
が,本作はすべてにおいて期待以上の出来に仕上がっている。綺麗なアニメーション,(解像度の制限という根本的な要因を除けば) 他機種と並べても遜色のないグラフィック,質の高い PCM,そして洗練されたユーザインタフェイス。この中でも特に,ユーザインタフェイスというのは重要な項目だ。普段あまり意識されずにいるものだが,直接操作性と結びついてくるものだけに,ここの出来が悪いとほかのどんな項目が優れている作品でも遊んでいてストレスの溜まるものとなってしまう。
さて,それでは外面はともかく,実際に遊んでみる上ではどうだろうか?
満点とはいわないが,十分合格点を与えられるものといえるだろう。まず,ゲーム内での期間が 1 か月と短いためにプレイ時間が 3 時間程度に押さえられ,途中でだれることなくプレイできる。また,シナリオ自体の出来も−−既存作品のパクリが多いとはいえ−−それなりにしっかりしており,一気に最後まで遊ぶ気にさせられた。付け加えるならば,基本的にゲームに限らず小説や映画など,どのような創作作品においても,必ずどこかしらにその作者が感銘を受けた他作品の影響が現れるものであり,それを単なるパクリのままで終わらせるかそれ以上のものとするかは作者の力量および,受け手の感じ方の違いになってきてしまうだろう。少なくとも筆者にとっては,ぎりぎりの線でパクリ以上−−すなわち自らの作品に取り込んだうえで,それをひとつの個性と成し得たもの−−に感じられた。
次に,この手のゲームの常として 2 度目以降のプレイ時には以前に遊んだ部分と重複するところが多々あり,時としてそれが繰り返しプレイすることに苦痛を感じさせるのだが,本作ではメッセージのオートスキップ機能を設けることによって不必要な場面を早送りすることが可能となり,快適なゲーム展開を味わえた。細かい気配りだが,非常に嬉しい機能だ。もちろん,調子に乗ってスキップし続けていると,大事なメッセージまで読み飛ばしてしまうこともあるのでほどほどに。以前とまったく同じ場面に見えても,選択した選択肢次第で微妙に内容が変わっていたりすることもあるからだ。
以上,システム面を中心に本作品の内容をざっと説明した。それを踏まえた上で,再度ゲームの流れを追ってみよう。
本作では,恋愛過程を通じて最後にファーストキスを体験するというのが目的だ。恋愛対象となる女性キャラクターは全部で12人と,数多く登場する (実はこの人数,隠れキャラを含めてのものなのだが,マニュアルやオープニングムービーなどに堂々と登場しているので公表してしまっても差し支えないだろう)。がしかし,だからといってゲーム中で複数の女の子にアプローチをかけられるのかというと,そんなに甘くない。与えられた 1 か月という短い期間では,そのような余裕はほとんどといってよいほどないからだ。さらには,最後の 1 週間は一人の女の子だけを選んで,彼女を中心としてストーリーが進行するために,実質 3 週間しか時間がないのである (後述)。そんな限られた時間の中で浮気行為を繰り返せば...,おのずとどうなるかは明白だろう。
それではどうすればよいのか? 基本的には一人の女の子にターゲットを絞って行動すれば問題ない。アドベンチャーモードでは話が勝手に進行するだけだが,選択肢を選ぶときに目的の女の子に好感を持たれるコマンドを選んでおけばよいのだし,移動モード時には常に目的の女の子と会うようにしていれば,相手の好感度を上げるのはたやすいはずだ。もっとも,中には例外的なキャラクターもいるので,一概に一人に絞るわけにもいかないのだが。
「でも,移動モードで相手がどこにいるのかもわからないのにいちいち捜して回るのは大変じゃん。この手のゲームって,結局いつもそこで挫折しちゃうんだよね」 という人もご安心。本作では,無意味に街中を歩き回る必要はない。移動できる場所は何か所かに限定されていて,マップ上からその場所を選ぶだけ。しかも,誰かがいそうな場所 (男性キャラも含む) にはハートマークが表示されるという親切設計だ。また,各キャラクターの出現場所は限定されているために,何度か繰り返して遊んでいるうちに,おのずと攻略パターンが掴めてくるだろう。
そうして 2 月 22 日を迎えると,いままで知り合った女の子の中から本命の一人を選び,以後そのキャラクターを中心としたシナリオが始まる。ちなみにこのシナリオは第二章と称しており,本章独自のオープニングムービーも存在する。何とも凝った作りである。
第二章ではアドベンチャーモードだけでゲームが進行するので,ここでの攻略法は純粋にどの選択肢を選ぶかということのみになる。ただし,よほど致命的な選択をしない限りは大勢に影響はないようだ。これは第一章のときにもいえることだが,本作ではゲーム進行に決定的な影響を及ぼす選択肢というものは意外に少ない。暇があったら,いろいろな選択肢を試して各キャラクターの反応を見てみるのも面白いかもしれない。
少し話が逸れてしまったが,要するに二章が始まった時点でほぼ 9 割方はゲームクリアできたものと思って差し支えないだろう。むしろ,第一章終了時に女の子の好感度が一定以上に達していなかった場合には第二章を見ることなく卒業式を迎え,自動的にバッドエンディングとなってしまうので,そちらを注意したほうがよいだろう。
おまけも充実
本作ではおまけ機能も充実している。最近のゲームでは必須項目となったグラフィックモードにサウンドモードはもちろんだが,一度ゲームクリアをすると第二章のオープニングが見られるようになることや ("NECロゴ→HuneXロゴ→オープニング→タイトル画面→キャラクターの自己紹介→始めに戻る" だったのが,"NECロゴ→HuneXロゴ→第一章オープニング→タイトル画面→キャラクターの自己紹介→第二章オープニング→タイトル画面→..." となる),ゲーム内容を踏まえてキャラクターの自己紹介が微妙に変化することなど,細かいところでのおまけが多いのが特徴だ。もっとも,細かすぎるためにおまけに気がつかないということもありうるのだが...。
また,ミニゲームとして対戦格闘ゲームが付属している。筆者は普段格闘ゲームでは遊ばないので,このミニゲームがどれほどの完成度を持っているのかはわからないが,少なくともグラフィックやキャラクターの動きに関してはなかなかよいと感じられた。実際,FX 関連の掲示板での反応は上々だったようだ。
ところで,本作でのおまけは純粋に 「おまけ」 として楽しめたが,時として本編よりもおまけに力を入れているとしか思えないようなものなど,おまけの意味を取り違えている作品があることには閉口する。おまけはあくまでおまけ,ゲーム本編が完成したあと,余裕があればおまけを入れる程度のものに留めておいてほしいものだ。また,我々ユーザ側としても安易におまけを求めるような真似は,今後のゲーム業界の健全な発展のためにもやめたほうがよいだろう。
弱すぎるキャラクター
本作で唯一残念に思うことは,グラフィックが致命的に弱い点だ。いや,これは別に,画面が汚いとかいう意味ではない。むしろ,FX のソフトとしてはトップクラスのクォリティで CG を提供してくれている。では一体,何がいけないのか?
キャラクター各々にまったくといっていいほど個性が感じられないのだ。キャラクターの描き分けができていないのはいうに及ばず,同じキャラクターでさえも場面によって絵が変わってしまっていたりする。そしてゲームを遊んでいて何よりも違和感を感じる点は,会話時などに表示されるすべてのキャラクターグラフィックが 「左半身を前面に出す」,いわゆる 「右利きの人が人物を描くときにもっとも描きやすい」 ポーズでしか登場しないことだ。
複数の人物と会話をするときなど,すべてのキャラクターが同じ角度で登場する。何ともお粗末としかいいようがない。もちろん,お情け程度に正面から描いたものもなかにはあるのだが,見事に絵が崩れていたりと,悲惨極まる状態だ。反面,イベント時のフルグラフィックではいろいろなポーズで描いてくれているのだが,前述のように絵柄がぽんぽんと変わってしまうので,かえって逆効果になりかねない結果となってしまっている。
本作のキャラクターデザインを担当した人物は,同人を中心に商業活動もしている方と聞く。最近の風潮として,同人方面での人気作家の起用ということが挙げられるが,それ自体が悪いというつもりは毛頭ない。新しい人材を発掘することは,非常に重要なことだ。ただ,それが高じてプロとしての実力がまだ十分に備わっていない人材を起用することだけはやめてほしい。商業作品と同人作品では,おのずと境界線が違うのだ。同人作品としてなら 「デッサンとかもいいかげんだし描き分けも全然できていないけど,でも何となく好き」 で許されるが,商業作品ではそのような甘えは許されない。
どうも最近はその辺の境界が薄れてきているというか,同人とプロとの敷居が低くなってきているというか,デザインを発注する制作者側もそれを受ける作家側も,何やらみんなが大きな勘違いをしているように思えてならない。これではゲーム業界の健全な発展というものは望めなくなってしまうのではなかろうか。もちろん最大の問題点は,そういったソフトを安易に受け入れてしまう我々ユーザー側の問題意識の低さにあるわけだが...。
と,上記の理由から本作品のグラフィックに関した評点はかなり厳しいものとなったのは否めない。もっとも,それでいて 5 点というのは与えすぎではないかという気も少々するのだが,これは,ジャギがきちんと取れているかなどの CG としての完成度や画面構成などを総合した上での評価であることをご了承いただきたい。正直にいって,キャラクターデザインそのものについて評価すればせいぜい 2〜3 点どまりといったところである。
幸い本作では,キャラクターの性格付けやシナリオが比較的しっかりしているために絵柄の弱さを補うことができたが,これでシナリオ等が破綻していたらと考えると,想像するだに恐ろしい (いや実際のところ,破綻しかかっているシナリオもあるのだが...)。
関係諸氏の猛省を促したい。
さよならFX?
FX のソフトとしては近来稀に見るよい出来の作品なのだが,残念なことに本作以降の FX の展開がまったく見えてこない。ハドソンソフトから 「天外魔境III NAMIDA」 が発表されてはいるものの,情報はまったく非公開で本当に制作しているのかどうかも疑わしく,さらには FX の親元である NEC ホームエレクトロニクスでは,これまでゲーム関連事業を扱ってきたホームサーバ事業部エンターテイメント事業推進本部がホームスクリーン&サーバ事業推進本部に組織改変され,今後 FX はますます縮小の方向に向かって行くものと思われる。中には,本作が事実上,FX 最後のソフトという声も聞かれる。
先日,ZDNet のインタビュー記事で,NEC HE 自身は今後もコンシューマ事業を続けるとのコメントが出されていたが (以下に一部を引用),もしこの言葉が真実であるならば,何らかの行動を起こしてもらいたいところだが...。
ZDNet ということは,今後はPC-FXよりもパソコンゲーム関連に力を入れることになりますか。
近藤 いえ,そんなことはありません。コンシューマーも,パソコンゲームも2本柱として展開をしていきます。ただ,今後ますますパソコンのCPU性能が向上し,グラフィック機能が強化されていきますよね。パソコンはコンシューマーゲーム機以上の性能を目指して進化し続けていると言えなくもないわけで,そうなれば当社の出番もますます増えてくることになるでしょうね。
(出典:ZDNet/JAPAN)
閑話休題。まあしかし,本作が FX 最後のソフトとなっても,それはそれでいいようにも思うのである。完成度の低い変なソフトを出されてそれが最後となれば,FX はまさに 「失敗の連続」 で終わってしまうが,本作のような良質なソフトで締めくくれれば,何となく格好がつくではないか。
「有終の美を飾る」。それは,本作品にこそふさわしい言葉なのかもしれない。
('98/5/12)