美濃市制施行50周年記念事業「市民の劇場」
親と子に捧げる美濃市民参加音楽劇
「ゆきと弥助―紙すきのうた」より
―プロローグとエピローグのある三幕八場
ご あ い さ つ
本日は、親と子に捧げる美濃市民参加音楽劇「紙すきのうた」公演に多数お越しいただきありがとうございます。
この公演は、岐阜市出身の児童文学作家角田茉瑳子さんの書かれた小説「ゆきと弥助―紙すきのうた」を原作として平成11年国民文化祭で「美濃和紙」とそれに携わった「女性」をテーマとする音楽劇として創作されたものです。
その後、県民文化祭のメイン事業「ぎふ・文化の祭典」において岐阜地区・飛騨地区で再演され、今回美濃で公演することとなりました。
美濃市制施行50周年の節目の年にこのような美濃市にゆかりの深い創作音楽劇「紙すきのうた」を多くの市民の参加によって公演できることはとても喜ばしいことです。
人の心の豊かさや生活の潤いが求められる「住みたいまち訪れたいまち 美濃市」が実現していくためには、市民一人ひとりが自己の創造性を発揮できるよう芸術や文化といった分野の環境づくりも大切なことと思っております。
文化会館の「市民の劇場」は、これまでレベルの高い舞台芸術作品に取り組んでまいりました。とりわけその中で、ミュージカルや創作音楽劇のように市民参加による手作りの芸術文化は大きな成果が現れてきたのではないかと喜んでおります。
最後になりましたが、当音楽劇の公演にご尽力を頂きました関係者の皆様方に心から敬意と感謝を申し上げ、ごあいさつといたします。
美濃市長 石 川 道 政
■スタッフ・キャスト
スタッフ |
原作‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 角田茉瑳子 |
作曲‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 藤掛 廣幸 |
台本・演出‥‥‥‥‥‥‥‥ | 松岡直太郎 |
演出協力‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 奥田 真弓・島 源三 |
演出助手‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 錦織みゆき・松下 恵美・猿渡 巳結 |
歌唱指導‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 中島 富蔵 |
合唱指導‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 加藤 秀貴 |
児童合唱指導‥‥‥‥‥‥‥ | 山口 充代 |
合唱・児童合唱指導補‥‥‥ | 武藤 純代 |
児童演技指導助手‥‥‥‥‥ | 小栗恵利子 |
美術監督‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 浅野 公蔵 |
音響‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 纐纈 修司 |
音響協力‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 綜合舞台はぐるま |
演奏‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 藤掛廣幸ソロオーケストラ |
舞台監督‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 村瀬 伸・冨田 茂雄 |
装置プラン‥‥‥‥‥‥‥‥ | 高橋 秀郎 |
照明プラン‥‥‥‥‥‥‥‥ | 浅野 公蔵 |
装置製作‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | ワタナベ工芸・小津看板・西部工務店 |
かつら‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 神田かつら |
衣装(ソリスト)‥‥‥‥‥ | 北徳 |
練習ピアノ‥‥‥‥‥‥‥‥ | 鈴木恵理子・高岸万由佳・清水 歩美 |
実技指導‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 市原 智子 |
小道具‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 美濃市文化会館 |
花御輿の花協力‥‥‥‥‥‥ | 美濃市相生町大笹社中 |
資料協力‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 美濃和紙の里会館 |
制作‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 美濃市文化会館 |
実行委員会 | 委員長‥‥‥‥ | 雲山 文夫 |
| 委員‥‥‥‥‥ | 市原 達雄・大谷まさ子・澤村 正・庄司 年栄・高橋 貴子 武井 初子・平田 勝栄・藤川 要・松岡直太郎・森 政治 太田 松雄・佐藤恵美子 |
スタッフ協力‥‥‥‥‥‥‥ | 稲垣由紀子・大塚 高明・大坪 修・大原 卓・桜田 智志 早川 賢治・せぴあ会・美濃子どもミュージカル親の会 |
題字‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 藤川 藍泉 |
キャスト |
ゆき(元郡上藩士の娘/武本家の養女)‥ | 篠田 弘美 |
弥助(元下男/武本家の作男)‥‥‥‥‥ | 井上 博嗣 |
源三郎(武本家の跡取り)‥‥‥‥‥‥‥ | 中島 富蔵 |
とね(典具帖紙を教えた郡上の女)‥‥‥ | 小川 茂子 |
彦四郎(美濃の紙商人・小森家の主)‥‥ | 雲山 晃成 |
つね(武本家の女主)‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 家田富美子 |
かよ(源三郎の娘) | 〈二幕〉‥‥‥‥‥‥ | 西尾 香乃 |
| 〈三幕〉‥‥‥‥‥‥ | 須田 知子 |
ちえ(石徹白から来た少女)‥‥‥‥‥‥ | 後藤千穂子 |
仙太(小森家の奉公人)‥‥‥‥‥‥‥‥ | 山田 尚明 |
村の男・勘助‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 後藤 康弘 |
村の男・常吉‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 市原 俊美 |
村の女‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 武藤 純代 |
村の女‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 山田 智恵 |
津保谷の娘‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 清水 歩美 |
津保谷の娘‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 那須世津子 |
村の男たち‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 高橋 定申・後藤 秀雄・後藤 博見・安藤 紘 今井 淳・陶 忠廉・後藤 康弘・市原 俊美 |
村の女たち‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 大谷まさ子・岡本 益子・小酒井正子・阪口 順子 清水ふみ子・武井 初子・武井美保子・辻村 英子 森 光子・井端 聖恵・須田 茂美・高橋 栄子 那須世津子・三浦 幸子・井戸めぐみ・今尾さち子 小木曽利代子・桐山なほ美・梁瀬 景子・武藤 洋子 高岸万由佳・清水 歩美・武藤 純代・山田 智恵 |
村の娘たち‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 家田裕美子・纐纈奈々恵・下村 真弓・西出 未奈 山下あかね・庄司 彩希・古田 愛莉・高橋 和子 服部 晃佳・古田美香子・森 美月・西出 映奈 西部美幸希・服部 由佳・古田 朋香 |
村の子たち‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ | 山下 慶二・鈴木 志穏・鈴木飛羽衣・猿渡 章太 服部 善樹 山口 莉穂・大西絵梨奈・猿渡 亜衣・畑佐 香奈 古田麻友香・小栗 由果・猿渡 真美・家田 阿美 江崎 華奈・太田 真央・太田 夕稀・河村 侑莉 纐纈あかね・須田 知子・村瀬みのり・山口 萌絵 山下もえこ・小栗 巴羽・亀山 侑果・須田 侑里 丹羽あかね・古田 梨子・山口 莉奈 |
■スタッフプロフィール
原作●角田茉瑳子
岐阜県出身、在住。
1983年「竹人形」が『日本キリスト教児童文学全集・別刊2』(教文館)に収録。『ゆきと弥助―紙すきのうた』(岩崎書店)で、岩崎少年少女歴史小説賞、第17回児童文芸新人賞受賞。岐阜県芸術文化奨励賞受賞。『鳩よ、清流にはばたけ』(岩崎書店)。『蘭丸―夢の途中』(岩崎書店)。『ギンギツネの恋』民話集の執筆、監修(関市教育委員会出版)。『洗堰に日は昇る』戯曲執筆。他多数。
東海女子短期大学講師。日本児童文学者協会会員。日本児童文芸協会会員。
作曲●藤掛廣幸
岐阜県出身。
日本音楽コンクール入賞、国際エリザベート音楽コンクールグランプリ、笹川賞作曲コンクール2年連続第一位、ほか数々受賞。交響曲、オペラ、ミュージカル、室内楽曲、合唱曲、TV、ラジオ、映画音楽等、作曲発表した作品は多岐に亘る。「銀河交響曲」はじめ世界中で発売されているアルバム多数。
編曲では、イ・ムジチ合奏団の「日本の四季」がある。
シンセサイザープレーヤーとしては、フルート奏者ゴールドウェイ、ジョージ川口、小口大八らと共演。指揮者としても、NHKホールなどで活躍。
市制施行50周年記念式典で行われた子どもミュージカル「ブンナよ木からおりてこい」の作曲、「紙すきのうた」ではアーティストイン・レジデンス「美濃・紙の芸術村」事業第1回特別アーティストとして参加、現地取材を入念に調査し、イメージピッタリな曲として作曲された。
台本・演出●松岡直太郎
岐阜県出身。
フリーの演出家として活動。ギリシャ悲劇「トロイアの女」をオペラ化して以来、岐阜県「メディア」、岐阜市「原野」「尾なし龍」「おくわ堤」、各務原市「かかみ野の空」、大垣市「小さな虫の物語」「ブンナよ木からおりてこい」、揖斐郡坂内村「夜叉ヶ池」等、数多くのオペラ、ミュージカルの台本・演出を担当してきた。
日中国交正常化25周年記念・日中合作によるオペラ「太陽をさがして」の台本演出、杭州芸術学校・浙江昆劇院と合同によるミュージカル「ブンナよ木からおりてこい」の共同演出により、杭州市名誉市民受賞。県内の創作オペラを一堂に会した国民文化祭前年祭では「オペラ・ハイライト」の総監督、国民文化祭前夜祭では「紙すきのうた」の台本演出等で平成12年度岐阜県芸術文化顕彰を受賞。
最近では岐阜県民文化祭創作オペラ「桜咲く霞の渓の物語」「一粒の豆」の台本演出、美濃市の創作オペラ「お姫の井戸」の台本演出を担当。今夏には鶉田神社で野外公演された創作オペラ「尾なし龍」の中国公演を委嘱された。岐阜県芸術文化会議会員。
■キャストプロフィール
ゆき●篠田弘美
国立音楽大学声楽科卒業。岐阜市民芸術祭、大垣市民芸術祭、岐阜県美術館・岐阜市歴史博物館コンサート等多数に出演。長良川国際会議場等でソロリサイタル5回開催。一人オペラ「夕鶴」「ぞう列車がやってきた」を企画出演、同オペラを50回公演。岐阜市文化センター開館10周年創作オペラ「原野・黄金の街へ」の主役チンツ役、日中合作音楽劇「太陽をさがして」の主役母親役、第14回国民文化祭・ぎふ'99前夜祭創作音楽劇「紙すきのうた」の主役ゆき役、サラマンカホールオペラ「メディア」の主役メディア役など多数の舞台に出演。また、ミュージカル「ブンナよ木からおりてこい」の音楽監督、創作音楽劇「お姫の井戸」「一粒の豆」の音楽監督等多岐にわたり活躍。岐阜県芸術文化会議常任理事、日本演奏連盟会員。平成12年度岐阜県芸術文化奨励賞受賞。
弥助●井上博嗣
オペラ「フィガロの結婚」のフィガロ、伯爵。「魔笛」のパパゲーノ、モノスタトスに出演。岐阜県内で行われた「信長天下を取る」、創作オペラ「トロイアの女」「かかみ野の空」「オリベ焼文様」「夜叉ヶ池」に出演。県民文化祭「桜咲く霞の渓の物語」、「一粒の豆」等、主要キャストをつとめる。羽島郡少年少女合唱団はじめ合唱指導多数。現在、羽島郡笠松町立笠松小学枚教諭。岐阜演奏家協会会員、スコラーズ岐阜のメンバーとして活躍。
源三郎●中島富蔵
岐阜市民芸術祭、「志んの会」、護国神社野外音楽祭、加納高校音楽科40周年記念演奏会、「ニューイヤーコンサート」等に出演。オペラでは「こうもり」のアイゼンシュタイン、「ヘンゼルとグレーテル」の魔女、「魔笛」のタミーノ、「コジ・ファン・トゥッテ」のフェランド、「カルメン」のダンカイロ、「かかみ野の空」の高市王子役等に出演。現在、サラマンカホールチーフプロデューサー。岐阜演奏家協会副会長。
とね●小川茂子
桐朋学園大学声楽科卒業。同大学研究科2年修了、在学中、室内楽で多数の現代曲を演奏。在京中、合唱・宗教曲のソリスト、合唱指導、ヴォイストレーナーとして活動。1991年ミラノ短期留学。東京・岐阜にてリサイタル開催。県民ふれあい会館主催、ランチタイムコンサート出演。主なオペラ出演は、秋山和慶指揮オペラ「アルパートヘリング」ヘリング夫人。外山雄三指揮オペラ「カルメン会修道女の対話」。
彦四郎●雲山晃成
美濃市在住。平成11年に公演された「紙すきのうた」に感銘を受け、平成15年美濃市にて公演された「お姫の井戸」に村人として出演。さらに県民文化祭創作音楽劇「ふるさとの昔話 一粒の豆」にも出演。とくに第三話「名なし木」では村人の中心的存在として活躍した。今回は初のメインキャストとしての出演。
つね●家田富美子
美濃市在住。聖徳学園岐阜教育大学教育学部中等教育学科音楽専攻を卒業後、教職につく。現在関市立桜ヶ丘中学校勤務。美濃少年少女合唱団指揮者、コーラスあじさい指導者、混声合唱団ユーベルコール所属など音楽活動を展開、平成14年の「小さな虫の物語」でも合唱指導を手掛けた。また「お姫の井戸」では、庄屋の妻みわ役・昨年の県民文化祭「一粒の豆」では合唱指導をするなど多岐にわたって活躍中。
ちえ●後藤千穂子
美濃市在住。名古屋外国語大学外国語学部英米語学科卒業後、教職につく。現在昭和中学校に勤務。これまで様々な演劇に出演。14年3月に公演された「小さな虫の物語」ではスズムシの妻役で出演した。また平成15年3月「お姫の井戸」では娘ちよ役、15年12月県民文化祭「一粒の豆」では第一話「天ん邪鬼」で天ん邪鬼役で出演。
仙太●山田尚明
名古屋外国語大学中国語学科在学中。武義高校入学後合唱部に入部。さまざまな演奏会に出演し合唱経験を積む。現在男声合唱団アーベントコールに所属。鈴木史朗氏に師事。
勘助●後藤康弘
平成14年度「ブンナよ木からおりてこい」で舞台監督を務めたのを機に、「お姫の井戸」で村人役として出演。さらに平成15年度県民文化祭創作音楽劇「一粒の豆」にて重要な村人役を演じ、今年念願の「紙すきのうた」で地元キャストとして抜擢された。
常吉●市原俊美
青年のころギターを弾き、フォークグループを結成。「ムージバンド」として活躍。歌好きの延長で「お姫の井戸」で村人役として出演し、その力を再発見。県民文化祭創作音楽劇「一粒の豆」でも村人として出演、そして今回地元キャストとして抜擢される。紙漉きの家に生まれ今回の音楽劇には特別な思い入れがある。
かよ(二幕)●西尾香乃 | | かよ(三幕)●須田知子 |
| | |
■キャスト
●村の女たち(ソプラノ) | ●村の女たち(アルト) |
| |
●村の娘たち | ●村の男たち |
| |
●村の子たち |
|
■あらすじ
美濃紙は、千三百年の昔から、いつの時代も女が紙を漉いてきた。
【一幕】
明和元年〈1764年〉浅春。
郡上街道を南に向う山道を元郡上藩士の娘「ゆき」と下男「弥助」が歩いていた。
両親を亡くしたゆきは、武儀部長瀬村の“武本家”の養女となり、弥助は作男として働くことになった。
峠にさしかかると、大矢田の豪商「小森彦四郎」に声を掛けられ、小森家で年期奉公する「仙太」や、紙すきとして買われた少女「ちえ」と出会う。
長瀬村、女たちが唄う「紙すきのうた」が聞こえる。
「勘助」「常吉」をはじめ村人たちは、行き倒れの老婆に困惑していた。
付き添う娘「とね」は必死に助けを求めていた。見かねたゆきは、持ち合わせていた南蛮薬で老婆を救う。とねは、お礼に、自分が漉いたという紙入れをゆきに渡し、去っていく。
子供たちが、だんだら蝶を追いかけ、陽が落ちる頃。
孫娘「かよ」を抱いた武本家の女主「つね」と息子「源三郎」が出迎えに来た。
源三郎は、ゆきの手にする紙入れが、幻の典具帖紙という紙であることに気付き、美しい典具帖紙を、いつか漉きたいという。
【二幕】
そして四年が過ぎ、武本家で紙を漉くゆき。
弥助は、庭に咲いた椿の花をゆきに届け、ゆきはこの美しい花をすかし模様の紙に漉きたいと思う。
小森の世話で、すき子として働く病弱なちえを、仙太は心配している。ちえの夢は、もう一度郡上に帰って暮らすことだが、金儲けしか頭にない仙太は理解できない。そんなちえを、ゆきは慰め励ましている。
武本家が寺に納めていた紙の権利が小森彦四郎に取られた。ゆきは、椿の花のすかし模様の紙を漉こうと決心する。
嵐の日も、ゆきは、すかし模様を工夫している。
板取川が増水し、村人たちが不安そうに集まってきた。川の見張りに源三郎と弥助が出ていったあと、すかし模様を何度も何度も漉き試みるゆきは、ふと手元に置かれた投網から、すきすに、網のように糸を編み込むことで、紙に模様ができることに気づく。源三郎に嬉しそうに報せるゆき。
その時、仙太が飛び込んできた。ちえが、雨の中で血を吐いて死んだのだった。
いつまでも、ちえを抱き、泣き続けるゆき。いつしか嵐は止み、暗い月が出ている。
【三幕】
さらに四年が過ぎ、村人は夏祭りのまわしに忙しい。
小森が、ゆきの漉いたすかし模様の評判を聞きつけて、つねをさがしにくる。
ゆきと弥助は、岐阜へ出かけた源三郎を迎えに、土手に来ていた。二人は幼い頃から一緒に暮らしてきたのに、心のうちを言葉にすることはなかった。
武本家のつねは、孫娘かよのためにも、息子源三郎に早く継がせたいと思っていた。その日、典具帖紙のとねとの再会に喜ぶゆきに、源三郎の嫁になってくれと、つねは頼んだ。
弥助は子供たちと、花みこしを作っている。
ゆきは郡上の両親の墓参りに行くことにした。弥助にも行って欲しかったが、弥助は断った。せめてもの思い出にと、かんざしを手渡すゆき。いつまでも紙を漉き続けてほしいと頼む弥助の目にも涙が光っていた。
村人でにぎわう、祝言の日。
弥助の気がかりは、ゆきの漉く典具帖紙であったが、とねからきっと漉けると言われ、もう思い残すことはなかった。ノリウツギの木を探してほしいと言うとねの頼みに、弥助はゆきの花嫁姿を見ることもなく、山に向う。
宴たけなわ、勘助が裏山の崖を弥助が登っていくのを見たと知らせにくる。
ゆきの、悲鳴が、春雪の中に消えた。
そして季節がめぐり、春祭りの日。
弥助の墓前に、武本家の人が、典具帖紙ができたことを報せていた。
ゆきは、弥助と歩いた遠くの山々を見ていた。
今日も村の女たちが唄う「紙すきのうた」が聞こえる。
公演にあたって
本日は、美濃市制50周年記念「市民の劇場」にお越し下さいまして厚く御礼申し上げます。
この記念すべき年を迎えて、千三百有余年の歴史を誇る美濃市の手漉き紙に生涯をささげた女性の物語をオペラ化した「紙すきのうた」を美濃市民参加により公演することになりました。この作品は岐阜県で開催されました国民文化祭に初演され、岐阜市、美濃市、高山市で公演され八千人近い観客を集めた、岐阜県の創作オペラを全国に発信した秀作であります。
このたびの上演では、主人公のゆきと弥助に初演以来の篠田弘美さん、井上博嗣さん、それに源三郎役の中島富蔵さん、とね役の小川茂子さんを迎えて、音楽を愛する多数の美濃市民が共演することになりました。
尚、昨年の「お姫の井戸」で演出をお願いしました松岡直太郎さんは、美濃市上牧に実家があり戦後まで紙すきをされていたとのことであります。
作曲は、美濃市の子どもたちが今年の秋に北海道公演を計画しています「ブンナよ木からおりてこい」で素晴らしい曲を作ってくださいました、藤掛廣幸さんが美しい幻想的な音楽を担当されています。
最近美濃市で創作しましたオペラ・ミュージカルには、キャスト・スタッフの両面で数多くの市民が参加し、長い期間のきびしい稽古ですぐれた舞台を表現するようになりました。
市民の皆様のいっそうのご支援をお願いする次第です。
「紙すきのうた」公演実行委員長 雲山 文夫
平成16年6月5日(土)午後6時・6日(日)午後2時/美濃市文化会館
主催/美濃市・美濃市教育委員会・「紙すきのうた」公演実行委員会
公演/岐阜県・岐阜県教育委員会
芸術文化振興基金助成事業