人質の息子 大変や大変や、はよ警察に電話して来てもらわなあかん。もしもし、警察かな。実はなも、今しがた凶悪犯人が辰己屋に押し入ってきて、敬老会に来ておったわっちのおっ母さんを人質にたてこもっておるんやなも。はよしんとおっ母さんが殺されてまうで、ちゃっと来てくんせぇ。
刑事 ピーポーピーポー、事件のあったのはここかな。
息 そうやなも。急いで助け出さんとわっちのおっ母が殺されてまう。刑事さん、何とかしてくんせぇ。
刑 わっちが来たからには心配はいらん、警察にまかせんせぇ。今すぐに助け出したるでなも。
息 刑事さん、ウチのおっ母ぁは敬老会で酒を飲んでカラオケを歌っておったんじゃが、どえれえ酒グセが悪いで、犯人を怒らせんうちに解決してくんせえ。
刑 今犯人と交渉しとるで、落ち着いて待っとんせぇ。
辰己屋のおかみ 何やな、今、上で子供を寝かしつけておったら、えらく店が賑やかいようやが、何があったんやな。
刑 またわけのわからん人がでてきたなぁ。おまはん、誰やな。
辰 まっ、失礼な人やなも。わっちゃこの辰己屋のおかみやねぇかな。このべっぴんさんの顔を忘れんさったんかな。
刑 なんや、そうやったんか。それにしても辰己屋のおかみさんって、こんなきれいな人やったかな。本物はまっと不細工な顔やったような気がするんやけど。
息 刑事さん、そんなことはどうでもええやねえか。おかみさん、実はカクカクシカジカというわけやで、犯人を刺激しんように頼むんな。
辰 そうかな。そんなら気を付けるけど、犯人から何ぞ要求してきたんかな。
刑 いま辰己屋の大将が犯人と交渉中やなも。
辰 あっ!大将がなんやしらん紙切れをもらってきたんな。なになに、『お婆を人質にしている、こんな酔っ払いのお婆ァはかなわんで、今すぐに現金で一億円を持ってこい』 やと。
刑 これこれ、刑事のわっちより先に素人が勝手に読むやない。(紙切れを取り上げる)いよいよ犯人が要求してきたなぁ、これからが勝負やなも。息子さん、人命第一やで現金の用意はできるんかな。
息 そりゃもうウチのおっ母ぁが助かるんなら銀行強盗をしてでも金は用意するなも。
刑 よし、これで準備はできた。さて誰が現金を届けるかじゃ。誰にしようかなぁ。
息 もちろん息子のわっちが行くに決まっとるやねぇかな。
刑 いや、おまはんが行ったらかえって犯人を刺激するかもしれん。この役はベテランの婦人警官にでもやらせることにするでなも。
辰 ちょっとちょっと刑事さん、その役ならこのわっちにやらせてもらえんかな。
刑 おまはんはまんだそんなところでウロウロしておったんか。素人にやらせるわけにはいかんなも。
辰 そんなこといわずにわっちにまかせてくんせぇ。
刑 あかんあかん。さっきも言ったように人命第一の大事な役やで、おまはんにできるわけねぇやねぇか。
辰 いやいや、酔っ払った人質を助け出すには、わっちやなけな絶対にあかんわな。
刑息 そらまたどうしてやな。
辰 サァ辰己屋のおかみのことならなぁ。
刑息 どうじゃな。
辰 酔っ払いの介抱(解放)は得意じゃわな。
エッキョウ!
市長 弱った弱った。まぁじき敬老会が始まってまうのに、まんだお年寄りに配る記念品が決まらへん。
婦人会長 ちょっと市長さん、そろそろ東市場の敬老会が始まるで、あいさつをしてもらわなあかんのやが、その前に今日配る記念品は持っておんさったかな。
市 これは婦人会長さん、今日はいろいろとご苦労さんやなも。ところでその記念品のことなんやが、実はまだ何を配ったらええか決まっておらんのやて。
婦 なにな!ほんならこれからちゃっと決めて買ってこなあかんのかな。
市 そうなんやて。ほんで弱っておったとこなんやて。
婦 ほんならまぁへえお年寄りの人んたが集まってござるで、何がええかお年寄りの人んたに決めてもらったらええんやねぇかな。
市 それはええ。常に市民の声に耳を傾けるのがわっちの政治信条やで、さっそく聞いてこよまい。
婦 こんちは。実はカクカクシカジカというわけで、おまはんたの話を聞きに来たんやが、何がええか教えてくんせぇ。例えば、目覚まし時計なんかどうやな。
老人 そうやなも。わっちんたまぁ年くってどこへ働きに行くわけでもねぇし、自然と朝早よ目がさめてまうで、目覚まし時計なんかもらってもどうしようもねぇんな。
市 たしかにその通りやなも。
老 あ、ええことを思いついた。こんなのはどうやな。
婦 それがええ。
市 まんだ何も言っとらへんて。それは次のセリフやねぇかな。
婦 ほんなら早よ教えてくんせぇ。
老 わっちはこのくらい(腕を広げて)大っきなキセルがええと思うなも。
市 キセルてって、煙草を吸うときに使う、あのキセルかな。
老 そうやなも。電車のキセルもらってどうするんや。キザミ煙草を詰めて吸うキセルやなも。
婦 キセルなんか煙草を吸わん人には何の役にもたたんやねぇかな。
老 そんなことはあらへん。このくらい大っきなキセルなら、外を歩くときは杖のかわりにもなって便利やなも。
市 そんなくらいなら折りたたみ式の杖のほうが軽いし、使いやすいと思うなも。
婦 そうやて、それに煙草なんて体に悪いものやなも。
市 そうそう。お年寄りの人には、禁煙してでも健康で長寿な老後を過ごしてもらわなあかんで、敬老会にキセルを配るなんてとんでもないことやなも。
老 いやいや、健康な老後を過ごすためには、このくらい大っきなキセルを配らな絶対にあかんわな。
市婦 そらまたどうしてやな。
老 サァ敬老会の記念品のことならなぁ。
市婦 どうじゃな。
老 長いキセル(長生きせる)がええに決まっとるわな。
エッキョウ!
作者のつぶやき この2本は実はどちらもよそから拝借したネタです。