―市長が登場―
市長 おーい、企画課長、おい、早よ来い。何やっとるんや。とろこいなぁおめぇは。
―後ろから企画調整課長登場―
企画調整課長 市長さん、まぁちょっとゆっくり歩いてくんせぇ。わっちゃ現金で1億円持っちょるんやで、とろとろしか歩けやへんなも。
市 何こく。まっとちゃっちゃと歩け。東市場の仁輪加に企画課長が出るなんてめったにねぇことなんやで。
課 本当やなも。たいてい東市場の仁輪加ってうと観光課長さんの登場やに、今年は一体どういう風のふきまわしやな。
市 そら、毎年メガネに丸書いとっても仁輪加はつまらんようになってまうし、第一あんまりくどいと本人が気ぃ悪うさっせるでなも。
課 なるほど。さすが市長さんはいろいろ気を遣ってござるんやなぁ。そんならわっちにもまぁちょっと気を遣ってこの荷物を半分持ってくんせぇ。
市 しょうがねぇなぁ。そんなら片っぽ持ったるわ。‥‥‥お、重ぇなぁ。政府も何を考えちょるんやろう。ちょっと東京へ来いって言うもんで行ってみたらいきなりふるさと創生の1億円、現金でくだれるんやで。
課 本当やなも。ところで市長さん、この1億円の使い道は考えてござるんかな。
市 まんだ。
課 どうしんさるんやな。
市 どうしよう。
課 そんな子供みたいなこと言っちょらすと、ちゃんと考えてくんせぇ。
市 たぁけ。こういうことはわっちが考えるんやなしに、市民の皆さんに考えてもらってアイディアを出していただく、これが「融和と誠実」って言うわっちの政治信条やでなも。早速誰かに聞いてみよまい。すいませーん、そこの人。ちょっとこっち来てくんせぇ。
―乞食登場―
課 ちょっと市長さん、この人だけはやめといたほうがええんやねぇかなも。
市 こういう人にこそ意見を聞かなあかんのやて。実はかくかくしかじかで、1億円をどう使ったらええか、教えてくんせぇ。
乞食 そうやなも、わっちは見てのとおりの乞食やで、まずわっちに1万円でもええでくれたらうれしいなも。
課 ほれみんせぇ。こんなぐれぇのことしか言わへんのやで。さ、市長さん、ほかっといて早よ行こ行こ。
乞 ちょっと待ってくんせぇ。おまはんた1億円もらってきたんやろ。使い道がわからんのなら、ちょうどええ人がおるで、紹介したるわ。
市 誰やな。
乞 まぁええでついておんせぇ。
―乞食を先頭に1周―
乞 やぁ、着いた着いた。
課 ここ・が・有名・な・小倉・公園や・なも。
乞 違うって。おまはんは黙っとんせぇ。ごめんやっす。大貫さーん、大貫さーん。
市 大貫さんてって、あの大貫さんかな。
乞 そうやなも。ずっと前に1億円拾わした、あの大貫さんやなも。この人やったらきっとええ使い道を教えてくだれるなも。
―大貫がジョギング姿で登場―
大貫 やぁやぁ、これは乞食の若松さん。やっとかめやなも。わざわざわっちの家まで来てくだれるとはどういうわけやな。
乞 そのことなんやけど、かくかくしかじか、とそういうわけでなも、美濃市の市長さんと企画課長さんをお連れしたんやなも。
大 そうやったんかな。けどその話なら川崎の佐藤さんって人に聞いたほうがええんやねぇかな。
市 あぁ、あの筍掘りに行って1億円拾った人。
大 あの人こそ竹の下から1億円手にいれた人やなも。
課 竹の下から1億円‥‥竹下から1億円‥‥なぁるほど。このネタはどこかの町内が仁輪加の落としに使いそうやなも。わっちんたもこのネタ使おかな。
乞 たぁけたこと言っちょんせぇ。台本書いた後で出てきたニュースやで、そう簡単に書き直せるわけねぇやろ。大貫さん、頼むでええ知恵貸してくんせぇ。
大 そんならしゃぁねぇなも。
市 ひとつ、よろしく。
課 頼むんな。
大 市長さん、おまはんとこの市はどっか外国と姉妹提携しておんさるかな。
市 いや、岐阜市は中国の杭州市と提携しちょるけど、美濃市はまんだ天涯孤独やなも。
大 そんならちょうどええ。この1億円でぜひどっか外国の大都市と姉妹提携しんせぇ。
乞 そんなに簡単に提携してくれるとこがあるやろうかな。こんな小っちゃな市と。
大 うん、大丈夫やて。ただ、市長さんが先頭きって外国へ行ったらあかんでなも。
課 なんでやな。姉妹都市になるんなら市長さんが代表にならなあかんのやねぇかなも。
市 そうやて。わっちが直接行かなんだら相手に失礼にあたるなも。
大 おまはんは自分が外国旅行してぇだけやねぇんかな。
市 そ、そんなことはねぇけど‥‥やっぱり外国は行きてぇなも。
大 ほれみんせぇ。おまはんも市長になってからロクに家族サービスもしとんさらんやろうで、今回は奥さんに姉妹提携の代表団長になってもらって、外国旅行させたりんせぇ。
課 あかん。ここ一番というときに市長さん本人が行かんでどうするんや。あかん。
乞 そうやて。いっくら外国と仲良くなってもわっちんたは乞食のまんまやねぇか。わっちんたに一万円ずつなとくれたら、もうちょっとええ服が着れるに違いねぇなも。
市 せっかく国がくれた大事なふるさと創生のお金なんやで、やっぱりこんなええかげんな人に聞きに来たのが間違っちょるんやて。帰ろ帰ろ。
大 大事なお金やでこそ、無駄遣いをしちゃああかんのやなも。ここはわっちの言うとおりに奥さんに外国と姉妹提携してもらっとんせぇ。
市 本当におまはんの言うとおり、家内にまかせてええんかな。
大 大丈夫。それが一番ためになる使い道やなも。
市課乞 そらまたどうしてやな。
大 さぁ、ふるさと創生のお金のことならなぁ。
市課乞 どうじゃな。
大 億(奥)を有効(友好)に利用するわな。
エッキョー!
作者のつぶやき ふるさと創生の1億円のとき、すでに忘れられかけている大貫さん(道端で拾ったバッグに1億円が入ってて、結局拾得物として受け取った)を思い出したというのは自分でもなかなかさえてると思います。しかし自分でも細かいことは忘れてたので、詳細を調べるのにNiftyから新聞社のデータベースにアクセスしてしまいました。
―店主登場―
店主 あぁホントに腹が立つ。腹が立つってったら腹が立つ。世の中ホントに腹が立つことばっかしやなも。
―その夫人登場―
夫人 あんた、何をそうピーピー騒いどるんや。そんなヒマあったら御用聞きにでも行っとんせぇ。
店 ほんでもおめぇ、腹が立つやねぇか、今度の消費税。わっちんた小あきないしちょるとこにも3%の税金がかかってくるんやねぇか。
夫 ほんでもうちみてぇなとこは売上が3千万円もあらへんのやで、消費税っていうのは払わんでもええんやろ。
店 たぁけ。ほんやでおめぇは何にも知らんのやて。わっちんとこでも仲買から買うときには3%高ぇ値段で買わされるんやし、そのぶん売る値段を上げるとお客さんから便乗値上げやてってつっつかれるし。板ばさみになって一番つれぇのはわっちんたやぞ。
夫 何な。そんなえれぇことになっちょるんかな。そらどもならんこっちゃなも。
店 そうやろ。ほんやで腹が立つんやて。
夫 こうなったら直接竹下さんのとこへ文句言いにいってこかな。
店 そうやなも。仁輪加やったら新幹線に乗らんでも東京の竹下さんとこへ行けるんやで、さっそく文句言いに行こまい。
夫 ほんならついとんせぇ。
店 こら、おっ母。こういうときこそ旦那をたてて先に歩かせるもんやぞ。
夫 何言っとるの。ロクに商売もせずに愚痴ばっかしこぼしとるような人がいばるんやねぇわ。おとなしぃついとんせぇ。
店 はい。
―1周―
店 ごめんやす。ごめんやす。竹下さんござるかな。
夫 ごめんやっす。竹下さん。こら竹下、タケ。たぁけ、たぁけ、出てこい。
―竹下登場―
竹下総理 何やな。外でたぁけ、たあけと騒々しいのはどなたやな。
夫 わっちやて。おまはん、たぁけの意味もわからんのか。このたぁけ総理。
竹 えれぇこのご婦人はわっちのことをほめてくれとるみてぇやが、たぁけとはどういう意味やなも。
店 たぁけとは、東京のことばでいったらバカという意味やなも。
竹 ふーん、そうかな。
夫 あかんわ、この人。意味を説明してもちょっともコタエやへんわ。
店 ところで竹下さん。わっちんたおまはんに話を聞いてもらおうと思って来たんやなも。
竹 そうかな。何でもええで話してくんせぇ。わっちゃこの頃、人からいろんなことを聞かれるばっかで、人の話を聞くのはやっとかめやなも。
店 ほんなら言わしてもらうけど、おまはんがゴリ押しした消費税はとんでもねぇ税金やなも。
竹 そんなことあらへんて。今までの不公平をなくしてみんなから平等に税金をもらう、その上小さな商店の人には税金がかからんとかいろいろ考えたんやなも。
夫 たわけたことを言っちょんせぇ。わっちんたでも洗剤やティッシュ買いに行くと3%余分に払わされとるんやねぇか。
竹 ほんでもたった3%やなも。1万円の買い物して300円。たったコーヒー1杯分やで、しんぼうして払ってくんせぇ。
店 何がしんぼうや。わっちんた血のでるような思いしとるんやなも。
竹 えーかげんにしなわっちもしまいに怒るなも。たった3%やねぇか。血のでるようなとはいくら何でも大げさすぎる話やなも。
店 そんなことねぇて。ぜってぇ大げさな話やなしに、血のでるような思いをしとるんやなも。
夫竹 そらまたどうしてやな。
店 さぁ、消費税のことならなぁ。
夫竹 どうじゃな。
店 欠陥(血管)が多いわな。
エッキョー!
作者のつぶやき この仁輪加は、自分で考えたネタではなかったはず。それより何より、出演者の“店主”と“夫人”が何の商売をしているのか、台詞の中に出てこないという重大な欠点を持った台本でした。