鉄塔はなぜ高い?
東京スカイツリー、名古屋や札幌のテレビ塔が高いのはテレビなどの電波をなるべく遠くまで届かせるためですね。では電線をぶらさげているもののうち、鉄塔はなぜ背が高いのでしょう。というか、同じように電線をぶらさげているのに、なぜ電柱は低くて鉄塔は高いのでしょう。
まだ日本語がヘンだけど、要は、どうしてあんなに高いところに電線をぶらさげなければならないのでしょうか、ということです。……それなら最初からそう書けって>自分。
それは、その電線の電圧がとても高いからです。カンタンですね。電圧が高いから危険のないようになるべく地上から離しておくのです。
ならどうしてそんな危険を冒してまで電圧を高くするのか。これはカンタンではありません。今回の主題でもあります。普通の家庭で使う電気は100Vか200V、工場のモーターだって200Vかせいぜい400Vなんだから、発電所でその電圧を作って電線をつないでやれば何不自由なく電気が使えます。でもそれは理論上の話。実際にはそれではとても電気が届かないことになってしまいます。
ちょっと前に話題になった超伝導というネタをご記憶の方はあるでしょうか。とある物質を絶対零度(およそ-273℃)近くまで冷やしてやると電気抵抗が完全になくなり、コイルの電流が永遠に流れつづけるというようなことで、リニアモーターカーに使うといってたものです。今回の話にリニアモーターカーは直接関係ありませんが、ちょっと考えてみましょう。超伝導になるとある物質の電気抵抗が完全になくなるということは、超伝導じゃないときは電気抵抗がなくなっていない、普通の温度ではどんな物質にも(電線に使う金属にも)電気抵抗が存在するということです。
例えば、電源コードによく使われる0.75mm2の銅線だと1mあたり約0.025Ω、テーブルタップの1.25mm2でも1mあたり約0.015Ω、ぐっと太く直径12mmの電線にしても1mあたり約0.00015Ω、決して0ではありません。このいちばん太い電線を使って発電所と20km離れたところで電気を使ってみましょう。このとき、電線はそのまま電気を流すだけでなく、電線そのもののにも抵抗があることを忘れてはいけません。その抵抗は、0.00015Ω/m×20,000m×2本=6Ωあります。
まず100V800Wの電気ストーブを使ってみましょう。このとき流れる電流は“電力と電力量”のページの(2)式から
I=P/E=800W/100V=8A。
電気ストーブに8A流れているということは途中の電線にも8Aが流れているということです。すると“オームの法則”のページの(3)式から
E=8A×6Ω=48V
発電所で148Vにしてやらないと20km先で100Vになりません。さらに“電力と電力量”のページの(1)式をもう1回使って
P=48V×8A=384W
これは何でしょう。これは途中の電線で無駄に消費される電力です。
では同じ800Wの電気ストーブだけど200V800Wのものを使ったらどうなるでしょうか。同じ800Wなので暖まり方は同じですね。でも流れる電流は4Aと、半分になります。途中の電線は4A×6Ω=24V、発電所では224Vにします。電線で無駄になる電力は24V×4A=96W。電圧が倍になると途中の無駄が1/4になりました。
途中の電圧が100倍になれば損失は1/10,000、1,000倍にすれば1/1,000,000。電圧を変えるために使うトランスなどでの損失を差し引いても充分メリットがあります。これが危険を冒して電圧を高くする理由です。そして、発電所からやってくる電気に、電圧を変えることがカンタンにできる交流が採用された理由でもあります。