1993年衆院選特集「政治学者10人」
(1)政治流動化こう見る

基本理念を失った保革

朝日新聞朝刊: 1993年(平成5年)6月19日(土曜日)

白鳥 令
(東海大教授)

 海部内閣以来、この3年ほどの政治改革論議はまったく不毛なものであった。保守陣営は高度成長の終焉(終焉)以来、国民をひきつける基本的政策理念を失い、革新陣営は社会主義の崩壊後に新たな国民に訴えかける政策の基本を見出せず、ともに家ねと利権でしか国民の指示を得られなくなったていたという根本的な状況にあるのに、それを無視して、単に選挙制度の改変の議論だけを突き出させたからである。
  その突出の理由の一つは、翼賛体制的な政治改革推進派の運動形態にあったともいえよう。財界も労働者代表も、マスコミも知識人もすべてを内包するといった民間政治臨調の存在はその典型だった。
  いま必要なのは、まず 第一に、選挙制度の問題に集中した結果無視されたさまざまな政策課題、老齢化社会へ向けての財政対策、環境・開発援助などに対する日本の姿勢、世界のブロック化傾向に対してどのような基本姿勢をとるか、など議論することである。
  第二に、政治改革の議論を、選挙制度だけいでなく、二院制、三権分立、効率的な議員内閣制度などを包括的に長期的視野から議論する、憲法問題調査会のようなものを新設したらどうだろうか。