1993年衆院選特集「政治学者10人」
(4)新政権に期待するもの

政治への信頼回復無理

朝日新聞朝刊: 1993年(平成5年)8月6日(金曜日)

白鳥 令
(東海大教授)

 対立していた政策をわずか一両日の議論で変更し合意するという、これほどでたらめな連立政権の誕生に意味があるとしたら、「自民党一党支配の終焉(しゅうえん)」か、いわゆる「政治改革の実現」にその価値を求める以外にない。
 第一に、自民党一党支配の終焉を心から喜べないのはなぜだろうか。それは、その終焉が、細川氏をはじめかつて自民党の内部にいた人々によって、自己への反省なしに行われたからである。
 第二に何ともむなしく感じるのは、小選挙区比例代表並立制も含めてあれほど自民党の政策に反対していた社会党が、政権参加のためにまったく無節操に政策を変えた点である。
 無節操に政策を変えた社会党と、自分が一カ月前まで所属していた自民党をその政策を否定することなくその存在を否定しよとうする脱党組とで作った政権で、政治への信頼を回復しようとはおこがましい。
 政治腐敗から生じた政治不信は腐敗防止策で解消できるが、政治家や政党が政策など少しも大切にしないと知ったことから生じた政治不信は、政治と政治家への信頼の全面的喪失だから、選挙制度を変えたくらいでは決して解消できない。