― Partnership of the “Ring”

ニュージーランド旅行編2日目、3日目


三人寄れば
 明けて1月4日。いよいよマタマタへのツアー当日である。大鹿さんとの約束は7時50分にホテルのフロント、ということだった。事前連絡では10時からのツアーに予約が取れているとのこと。オークランドからマタマタまでは車で2時間ほどの距離である。(なお、バスを使っていくことも可能で、料金も安くつくはずだけれど、1時間ほど余計に時間がかかるということと、後で明らかになる理由とで、お奨めはできない。)
 ぴったり約束の時間に大鹿さんは来てくださった。さっそく出発である。オークランド市内を抜けるとすぐに田園風景が広がり始める。ドライブ中もニュージーランドの風土と生活についていろいろと説明してもらえたので、まったく退屈することはなかった。それにしても、一般道も高速道路も区別がつかないほど速く走れる道路事情がうらやましくなった。ただし、道路を羊や牛が横切ることも珍しくないというのだから、自分で運転してみたいとまでは思わない。
 閑話休題。
 順調に車は走り、10時ちょうどにマタマタに到着。ツアーの受付があるというインフォメーション・センターに向かう。ところが、ここでちょっとしたトラブルが発生。なんと10時 からのツアーはもう出発してしまっていたのだ。「Hobbiton」のポロシャツと帽子を被った男性担当者が言うには、「たった今出発したところだが、予約時間の10分前には来ていてもらわないと困る。」とのこと だ。しかし、どう考えても2分や3分前に出発したという気配ではない。合点がいかないが、バスがいないことにはどうしようもない。次の出発は11時30分であるとのこと。それまで町で時間をつぶすことになった。(私たちはこれだけが目的だったからかまわなかったのだが、大鹿さんには余計な時間を使わせてしまった。今思っても申し訳ないばかりである。)
 非常に小さな町なので、ものの15分ほどで端から端まで歩き尽くせてしまう。忘れないうちに、例の看板で記念写真を撮影。やはりけっこうな観光スポットになっているようで、私たち以外にもここで記念写真を撮っている人を何組か見かけた。

正体をあらわした陰謀
 30分ぐらい経ったころだろうか、突然、大鹿さんから声がかかる。(彼は、万一の用心のためにインフォメーション・センター付近で待機していてくれたのである。)
「出発が11時に繰り上がったから早く来い、と担当者が言っている。」とのことである。インフォメーション・センター前まで戻りながら、3人で話し合う。要するにこれがこのツアーの方式なのだ。人数が集まった時点でツアーは催行。よほど大人数で行かない限り、予約などというものにはほとんど意味はない、というわけだ。この日の朝も、おそらく10時よりもかなり早い時点で出発してしまったに違いない。先に「このツアーに参加するためにオークランドからバスで来るのは避けたほうがよい」と書いたのは、こんな理由にもよる。ぎりぎりの計画を立てて動いていても、相手にその論理が通用するとは限らないのである。
 さて、インフォメーション前にはワゴン車が1台。先客が4人、うち2人は日本人の女性だった。私たちと合わせて7人でのスタートということになる。車のドライバーがツアー・ガイドを兼ねるという形。目的地はインフォメーション・センターから20分ほど離れているとのアナウンスがある。

ビルボ・バギンズの家で
 しばらく走ると、もうそこは「Hobbiton」の様相を呈し始める。山の起伏、草地の緑。ところどころに生える高木。懐かしい場所に帰ってきたような錯覚に陥る。
 よく知られているように、ロケ地は個人の農場である。このツアーが開始されたのはまだ4週間ほど前からだそうだ。当初、「夢は夢でありたい」というニューラインシネマとの契約で一般への公開は許されていなかった。最近になって、余計な手を加えて観光地化したりはしないとの約束ができることでツアーが実現したらしい。したがって、「お土産物」と呼べるような品物も皆無に近い。
 羊の群れを管理するための柵を4箇所ほど越える。べらぼうに広い農場である。どうやら10000頭ぐらいの羊が放牧されているらしい。途中、車から降り、撮影クルーのキャンプ地跡を見せてもらい、ガイドの女性がエピソードを紹介してくれる。その後、反対側の小高い丘から眺めると、ついに眼下に袋小路屋敷が姿を現す。たしかに、そこにはホビット庄があった。「10時出発組」と思われるツアー客がそちらに見える。また車で少し移動すると、いよいよロケ地跡への入り口である。そこに注意書きの看板が掲げられていたのだが、その中に「ウサギ穴(Rabbit Holes)があるので注意」という一文があって、思わずニンマリする。実際のところ、「Hobbit Holes」もいっぱいあるはずだもんなぁ。
 ここからは草地を歩きながらのツアーになる。ガイドさんは実に饒舌で、ポイントポイントでさまざまな解説を加えてくれる。私の場合、ヒアリング能力が皆無であるが、それでも、「ここがガンダルフを見つけた子供たちが走っていた場所」とか「ガンダルフが子供たちに花火を見せてやったところ」とかいった説明になると聞き取ることができた。
 しばらく歩くと、左手のほうに巨木が見えてくる。そしてその下には広場が。もちろん、ここがビルボの誕生日のパーティー会場である。ということは、あの巨木こそビルボがスピーチを行った場所だ。ガイドさんによると、ここを訪れるツアー客の中には実にいろいろな人がいて、ホビットのコスプレをしてくる人がいたのは当然 、パーティー会場で踊り狂ってみたり、ビルボのスピーチを完璧に再現して見せたりした人もいたという。(大鹿さんの話では、最近、このツアーのことがNZのテレビでも取り上げられ、100回も映画を見たという老婦人が映画の台詞を諳んじているシーンが映し出されたそうな。いや、世の中にはすごい人がいらっしゃるものです。)
 木をバックにして記念撮影。さすがにスピーチをする勇気はない。この木の向こう側には池があり、それがガンダルフが渡った橋のセットが作られた場所である。眺めると、たしかに映画の画面そのものの景色である。さすがに現在は、橋や小屋などの人造物は残っていない。それでも、やはりここはホビット庄そのものである。長年自分の頭の中だけで描かれていたホビット庄が、現実に眼前に広がっているということになんの違和感も抱かないというのも不思議ではある。たしかに、映画の場面が刷り込まれてしまった結果だと言ってしまえばそれまでだが。

 この木の場所からはおなじみの風景が見られる。袋小路屋敷のある「お山」である。ガンダルフが馬車に乗って上った坂道も見える。ガイドさんに従ってそこを上る。 杖でも持って歩きたい気分だ。いや、私たちはどう頑張ったってガンダルフは演じられない。やっぱりホビットが相応しいけれど。
 ホビット穴に関しては、表面に施されていた発泡スチロールの加工が取り外されているため、ベニヤ板が剥き出しになってしまっており、いかにも「跡地」然としている。しかし、寂しさとか空しさとかいったものは感じない。むしろ、ある種の落ち着きすら覚える。
 映画を何回も見た人に「一番好きなシーン」を尋ねると、「ホビット庄」と答える人が多いという。私もそうだし、パートナー氏も例外ではない。非日常の世界が描かれているにもかかわらず、最も日常に近いシーンが好まれるというのも象徴的だ。ホビットたちはここから二度と帰れないかもしれない旅に出発していったのだなあ、と妙な感傷に浸ってしまう。
 ガイドさんはここで、「映画の第3部で彼らはまたここに戻ってくる。その部分の撮影もしていった。」というような解説をしてくれた。実際の映画がどのような編集を施されるか分からない。それでも、私たちとしてはそのシーンが生かされることを願ってやまないのだ。
 ところで、「お山」のてっぺんにあったはずの木がないのを訝しく思われる方もあるだろう。あの木は映画撮影用に組み立てられたものだったとのことで、撮影後に分解されてしまったのである。その部品が頂上部分に保管されていた。
 袋小路屋敷の見学を終え、「ビルボとガンダルフがパイプ草を吸った丘」の上に立ち、「パーティー会場」を見下ろす。それも終わると、「指輪をはめたビルボが上ってきた石段」を下り、入り口に 戻ることになる。名残を惜しみながら、私たちは「ホビット庄」を後にした。
 帰り道、次のツアーバスとすれ違った。今度は大型バス。ほぼ満席である。なぜか日本語で「スクールバス」と書かれていたのには笑わせてもらった。こんなところで第2の人生を歩んでいる車もあるのだ…。

 2時間ほどのツアーで50ドル(NZ$は1ドル約65円である)という価格は、私たちにとっては十二分に納得のいくものであった。ガイドさん曰く、「このツアーをいつまで続けるかは分からない」とのこと。商売っ気はあまりなさそうなので、映画3部作の公開終了後にはなくなってしまう可能性も大。ほんとうにいいタイミングで行けたものだと思う。
 あとは一直線にオークランドに帰る。帰り道も大鹿さんのガイドで楽しく過ごす。朝のトラブルのせいで、結局8時間も付き合わせてしまうことになった。大鹿さん、ほんとうにありがとうございました。

暗闇の旅
 オークランド滞在、3日目。実質的な最終日である。朝10時から予約してあった映画を見に出かける。日曜日の朝だったが、客の入りは今ひとつ。おかげで、悠々と見られる。1回目よりは冷静になったので、細かいところまで目が行くようになる。いずれにしても、内容に関してはまだ述べるわけにはいかない。(そもそも、細かな会話とかが全く理解できていないうちに語れるはずもない(^_^;))
 パートナー氏は暗闇の中で2度ほど眠りかけるが、つついてやるとすぐに立ち直る。そして、レゴラスの活躍に拍手。あれ?彼には興味なかったはずなんだが。隣の女の子はクライマックスで「例のあの人」がかっこよく登場するシーンで大拍手(音は立てなかったけどね)である。いや、たしかにかっこいいわ。もっと早く来んかーい!!なんてツッコミはなし。
 例によってエンドロールが始まると同時に係員が乱入してきたんで、今日は早々に退散する。なんか、カザド=ドゥムの橋を渡り終えてモリアから脱出した旅の仲間の気持ち。まあ、しかたがないか。

 午後はお土産物を買うために街を歩く。その間にも初日より注意を払って各店やショーウィンドウを見て回ったものの、やはり『指輪』なブツはあんまり売られていない。でも 、この3日間十分堪能させてもらったので、これも許す。

指輪の幽鬼、北へ戻る
 短かったけれども、これぐらいの旅行も悪くはないかもしれない。時期的に航空運賃が高いのは問題だったが。
 退屈な飛行機に閉じ込められて11時間。名古屋空港に着いてみたら、大雪の後。気温差20度っていうのも体にこたえる。これもまあ、問題といえば問題ではある。

 第3部公開時にも海外へ出かけることはもはや決定事項だが、当初の予定通り英国に向かうべきか、それとも再びニュージーランドへ向かうべきか、帰ってくるなり議論の種にしてしまう、気の早い私たちであった。その前に第2部の日本公開をイヤというほど味わわせてもらわなきゃならないのだが…。

 かくして、オメデタ夫婦の旅はまだまだ続く。