物置2. 自作小説置き場

ここは原作「スレイヤーズすぺしゃる」をもとにした自作小説の置き場。基本的には「VAN−KIDS」に掲載したものになる予定。
それぞれ長いから要注意ね(笑)

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■1.パラレル・スレイヤーズすぺしゃる
「オレの仕事を言ってみろ!」

「おーっほっほっほっほっ!今度はちゃんとした仕事を見つけてきたわよっ、クルーズ!」
 気怠い午後、カウンターに頬杖付いて店番していた俺に、容赦ない高笑いが襲いかかる。まぁここんとこの恒例
行事となり果てているから、今では驚かないが。
 俺はクルーズ。旅の(自称)魔法剣士。もともと傭兵で流れの剣士だったんだが、ある本で「魔法剣士」という物
にハマってしまった。魔導師協会で実際に学んでみたんだが、おいしそーなのだけを身につけてとっとと旅に出て
しまったのだ。そんなワケで自称、と言うのがついている。
「そー言いつつ、前回迷った子犬の捜索と思いきやキメラの戦闘実験に騙されたのは、誰だ?」
 ジト目でその高笑いの主を睨む。先ほどの高笑いのポーズのままだが、頬に一筋の汗が流れ落ちたのを、むろ
ん見過ごすはずもない。
「や、やーねぇ、古い事根に持ってぇ。人間常に前を見続けないと進歩しないわよ」
 ぱたぱたと手を降りながら弁解するこの女、旅の魔導師で白蛇のナーガと言う。容姿だけを見れば、それはも
う非の打ち所がない美女なんだが、着ている物は一昔前の悪の女魔導師ルック。おまけに首にはドクロのネック
レスなんかしてるもんだから、せっかくの容姿を台無しにして余りありすぎる状態に突入している。
「そりゃーな。んな事根に持ちつづけたらお前となんかコンビ組んでらんねーよ。んで?今度はどんな内容で?」

 出会いはとことん不運だった。お互い旅の途中だったのだが、この町でナーガともう一人、背の低い女魔導師
がケンカしてる所に仲裁に入ったのが運の尽きだった。次に目が覚めたのは、寝たまま屋根から素通しの青空
が見える武器屋のオヤジの部屋のベッドだった。となりのベッドには、これまた「包帯いもむし」状態のナーガが
あった。
 どーやらナーガと連れの魔導師のケンカのとばっちりで店を半分吹っ飛ばされたらしいんだが、どういう訳か俺
も共犯扱いされていて、ナーガと共にここで働きながら弁償する羽目になっていたのである。もともと繁盛してな
かった店だけにもともとの商売では弁償しきれず、ついには「武器+冒険者の店」という看板を出して、ほとんど
何でも屋状態に陥っているのが現状。そんなこんなで、彼女には言いたいことはいくらでもあるんだが、とりあえ
ずコンビを組んで日々弁償金稼ぎに精進しているのである。

「ふっ、割と楽な仕事ね。ここからちょっと行った所にある森のコボルド退治よ。商隊がちょっかい出されて困って
るんですって」
「そりゃ楽目の仕事だなぁ。報酬少ないんじゃないのか?」
「そーでもないのよ。手付けに銀貨50枚、成功したら金貨20枚ですって!かなりおいしーでしょ」
「へぇ、ナーガにしてはまともな仕事じゃないか。で、いつからだ?」
「ふっ、私にかかればざっとこんな物ね!早速明日からでも行こうかと思ってるんだけど…、そうそう、今回の依
頼人を連れてきてるのよ。なんでも直にお願いしたいって。」
…依頼人待たせてんなら先に言えよ、おひ。
「あなたがクルーズさんですね?初めまして、セド・リックと言います。今回は引き受けていただいてありがとうご
ざいました。頼む人頼む人みんな断るんで、どうしようかと思っていたんですよ」
 見るといかにも人の良さそうな青年が手を差しだしながら入ってきた。おや?と思いつつ握手をしながら聞いて
みる。
「この仕事で断られる?普通こんなおいしい仕事、ありませんよ?」
 明らかに警戒されていると分かると、彼はため息をつきながら身の上を話し始めた。
「私は生まれも育ちもこの町なんです。この町のみんなと仲良くやっていたし、実際この商売を始めた頃も、みん
なひいきにしてくれていたんです。仕事を始めてもう数年たちますが、ここ半年くらいでみんなが私を避けるように
なったのです。私は何もしていないのですが、何かみなさん誤解をしている様で、最近では滅多に口もきいてくれ
ません。町でこれですから、他の町との中継交易でなんとか生計を立てていたのですが、ここ最近コボルドに商隊
が襲われるようになりまして。退治してもらおうにも、ここでは誰も取り合ってはくれません。そこで最近『なんでも屋』
がオープンしたと聞いて依頼してみたんですが…」
「ちょっと待てぃ。おい、今なんつった?」
 うつむきながら俺はゆらりと立ちあがる。
「は?えーとなんでも屋がオープンしたから…」
「この野郎っ、ここは冒険者の店であってなんでも屋じゃねーんだっ!人に物頼むんなら、きっちり店の名前確認
しとけぃ!」
 リックさんの襟首をふんづかまえて、一気呵成にまくしたてる。
「でもやってる事はなんでも屋よねぇ。否定できないわ」
「…できればそこで一緒に否定して欲しかったんですけど・・・」
へなへなと全身に脱力感を覚えながら、過程はどうあれ依頼を受けた俺達は打ち合わせを済ませて彼を見送った。

「しかし妙だよなぁ。あんなに人がいいのに、なんでみんな嫌ってるんだろう。」
「ふっ、人間って裏でなにやってるかわからないわよぉ」
「・・・キミに言われたら人生そこまでだよなぁ」
「なんですってぇ・・・、あ、いらっしゃ…い?」
 ナーガが食ってかかろうとしたその時にちょうど店にやってきたのは先ほど分かれたリックさんだった。
「あれ、リックさん。何か忘れ物ですか?」
「いやぁ、たいした事じゃないんだが。明日の待ち合わせをもう一度確認したいんだが」
「待ち合わせ?いやだなぁリックさん。明日は日の出の頃にうちに迎えに来てくれるって言ってたじゃないですか?」
「え?ああ、そうだったな。じゃあ、邪魔したな」
 曖昧な笑顔を浮かべつつ、そそくさとリックさんは出ていってしまった。
「なーに、あれ?ちゃんと打ち合わせ聞いてなかったのかしら。なんか態度もでかかったし。気に入らないわねっ!」
 ふくれっ面のナーガと俺も同感だった。確かに違和感を覚えたのだが、残っていた仕事が珍しく忙しかったので、
それはその場で終わってしまった。

 翌朝、約束通りにリックさんが迎えにやって来た。今は最初に会った時と同じ、温厚そうな印象を与えている。
ナーガもその様子にすっかり毒気を抜かれたようで、用意していた怒りは自然と俺で消費される事となった。ま、
どーでもいーけど。
 コボルドの森までの道すがら、俺はなんとはなしになぜみんなから避けられているかを聞いてみた。
「いや、聞いてみるとどうも私が報酬を払わなかった、ということらしいんですよ。正確に言うと『なんくせ付けて取り
上げられた』という事なんですが、もちろんそんな事はしていません。私は以前にちょっとトラブルを起こしてから報
酬は当日に前払い、という事にしています。ですから仕事の前にはあなた方の様にすでに渡しているんですが…。
取り上げるなんて事も、もちろんやっていませんし。ああ、僕はそこまで嫌われる様な事をしたんだろうか…」
 話をするうちにリックさんはどんどん足取りが重くなり、ついには座り込んでしまった。なかなか人生に疲れが見え
ている様である。
 「ま、まぁそんなに落ち込まないでくださいよ。リックさんもやってない、って言うんだから何か他の事で勘違いされ
てんじゃないですか?ほら、よくあるじゃないですか。そっくりな人が悪さしてる、とか」
 落ち込む姿を見物していても仕事が進むわけでも無し、なによりこっちも泥沼に肩を組んでダイビングしているよ
うな感じになってくるから、てきとーな愛想笑いを浮かべつつ気休めを並べ立てる。ああ、客商売だとこういう術が
身に付いてるから、いや。
 「そんなに似てる人がひょいひょいいるとも思えませんけどねぇ。でも実際こうしていても仕方ないですし。先を急
ぎましょう。」
「誰のせいで遅れてると思ってい・・・・るぉごっ!」
ぼそりとつぶやいたナーガを、その手も見せずにはり倒す。だから波風たてんなつーの。しかし温厚そうな顔して
一言多いな、このおっさん。
 そんな和やかな会話を楽しみながら歩いていると、ようやく例のコボルドの巣穴に到着した。どこぞで知恵をつけ
たらしく、生意気に見張りなんぞが立っている。
 「調べたんですが、見張りがいる場合は残りはみんな巣穴の中にいるみたいです。さあ、よろしくお願いいたしま
すね。」
「『さあっ』て…。なんか簡単に言ってくれるけどさぁ。まぁいーけどー。よし、さくさく片づけて帰りますか。行くぞ、
ナーガ!」


「ふっ、私にかかればざっとこんなものよ。時間としては新記録かしら?」
 いつもの髪をばさっとかきあげる仕草をしながら、やたら爽快そうにしているナーガ。後ろではリックさんが目を
点にしながらあんぐりと口を地面まで開いてぼーぜんとしている。剣の柄に手をかけたままの俺は、
「…いや、なんつーかさ。もうちょっと『俺達コボルド退してるんだぜ!』みたいな感じがあってもいいと思うんだけ
どぉ。何もいきなりドラスレで吹き飛ばすこたぁないだろーが。大体人の出番というものをだなぁ…」
「あら、さくさく片づけるって行ったのはあなたでしょーが。ご希望通り一撃で片づけてあげたじゃないの。まぁ速攻
詠唱だか威力は大した事無いけど、でもあいつらを退治するには必要十分てもんね、おーほっほっほっほっ!!」
「いや、十分とゆーか、過剰という気がするんですけど・・・。ほら、地形が変わってますよ、あそこなんか。」
 リックさんの一言に、いつもの高笑いがどんどん乾いていくのがよくわかる。一応彼女にもまずいと思う程度の知
能はあったらしい。
「ま、まぁいいやな。リックさんもこれで依頼終了でよろしいですね?歩いてきた時間がすっごくもったいない様な気
がしますけど・・・」
「ええ、これなら十分すぎるほどです。ありがとうございました。帰って食事でもしましょう。もちろん、ごちそうさせて
いただきますよ」
 十分過ぎる、という言葉にナーガがこめかみをぴくぴくさせているが、無視。それよりも夕食おごりというボーナス
の方が重要である。俺とナーガを相手に「おごる」とはなかなか無謀だとは思うが、途中で泣きが入っても食べ続け
ちゃるからな。
 そんなこんなで帰り道についたわけだが、途中リックさんがおなかの調子が悪い、という事で草むらの中に消え
ていった。待っているというのもなんなので、俺達二人は先にぶらぶらと歩き出した。 しばらくするとリックさんが俺
たちに追いついてきた。なにやらすごい形相をしているが。そんなに具合が悪いのだろうか。金持のくせになに食っ
たんだか。
「どうしたんです、リックさん。そんな顔して?」
 あまりの表情に訊ねてみると
「どうしたもこうしたもない!ちゃんとやつらを退治してないじゃないか!その場のノリだけで仕事をしているのか
ねっ?」
「え?そんなばかな・・・。あの状況で生き残ってるはずはなんですが。リックさんも確認しましたよね?」
 まくしたてるリックさんに、念押しのつもりできていみると
「ほほうなにかね?自分達の不手際を棚に上げて私の手落ちだとでもいいたいのかね?私はたった今草むらで
襲われた所なんだよ。なんとか逃げられたからいいようなものを」
「い、いやそんな事はないですけど。」
「だったら今のセリフは何かね?もういいっ、こんな事では仕事をこなしたとは認められん!先ほどの報酬は返し
てもらう!いいな!」
「えーっ!そんな無茶な事言わないでよっ!」
「ええい、口先と笑い声だけの魔導師などに聞く耳もたん!それから君達の事はみんなにも話しておくからな!今
後まともな仕事ができると思うなよっ!」
 そう言いつつ俺達から報酬を取り上げると、さっさと一人で行ってしまった。しばしぼーぜんとしていた二人だっだ

「どーゆーこった、こりゃぁぁぁぁっ!お、おめーがいきなりあんな大技ぶっ放すからこうなるんだろーがっ!」
「あたしのせいにしないでちょーだいっ!大体あの爆発で生き残ってる方が異常なのよっ!それにしてもなによ、
あの態度!いくら何でも言い方ってもんがあるでしょーが!」
「うーん、みんなこれをやられたんで相手にしなくなったんだろうな。まぁとーぜんいやとーぜんだな、こんな事され
たら」
 と、怒り収まらぬナーガを引きずりながら俺は町へと戻っていった。途中、ナーガの八つ当たり魔法のおかけで
さらに森が変形したことは、伏せておく事にしよう。

その日の夕方。店で仕事をしながらいまだにナーガがぶつぶつ言っている。いいかげんあきらめろっての。
「あーもうっ!忘れようとしても思い出せないこの怒りをどうしてくれるのよ!」
「・・・はぁ?でももういいかげんにしろよ。とりあえず手付けだけは残ったんだからさ。とりあえずの修繕費払ってほ
とんど残ってないけど・・・」
 などと言い合っている所へ、ドアの激しく開く音が。
「ひ、ひどいじゃないですか二人とも!どうして置いていっちゃったんですか!あの後二人を捜すわ森で迷うわで
さんざんだったんですからああぁぁっ!」
 見ると「いつもの」温厚そんなリックさんが顔を真っ赤にして怒っている。体中に付いている葉っぱや切り傷から
見ると、つい今し方まで迷っていたよーだ。
「何言ってんのよっ!人から金巻き上げてとっとと行っちゃったのはあんたでしょうがあぁぁぁっ!」
「人聞きの悪いこと言わないでください!僕が戻ってみたら、ふたりとももうどこにもいなかったじゃないですかぁぁ!」
 おかしい。ナーガとリックさんのケンカを眺めながら俺は思った。いくらなんでも、こんな見え透いた嘘をいう為に
怒鳴り込んでくるだろうか。どう見てもリックさんは本気で怒っているし。
「あの、リックさん?僕らから取り上げた報酬はどうされました?もう他のやつを雇ったんですか?」
「何言ってんですか!報酬なら朝お渡ししたじゃないですか!」
「じょーだんじゃないわよっ!さっき私たちから分度ってったくせにっ!」
「あーっ、あなた達までそんな事言うんですかぁぁぁっ!ひどいじゃないですかっ!」
「ふっ、この期に及んでシラを切るとは、あんたもたかが知れてるわねっ!」
 どっちが正義だかいいかげん分からなくなってきたところに、またしてもドアの激しく開く音が。
「さっきの報酬の件だけどな!手付けを返してもらってなかったぞ!」
と、入ってくると同時に怒鳴っているのは、他ならぬリックさんその人であった。
「…へ?リックさん…はここにいるわね。じゃああっちは…リックさんだわね。…ふっ、読めたわ。あなた、ホムンク
ルスかなんかの研究してるんでしょ!」
『んな事するかあぁぁぁっ!』
 見事に俺と最初のリックさん(一号と命名しよう)の抗議がハモる。そしてリックさん一号が後から来たリックさん
(同二号と命名)を見るなり
「兄さん!グロリア兄さん!何で?どうしてこんな所にいるんだよ?いつ戻ってきたんだ?」
「げげっ、リック!なんでお前がここにいるんだ!」
 どうやら二人は兄弟のようだ。しかしリックさん一号と二号が対峙しているシーンというのは、なかなか鏡チックと
ゆーか不気味とゆーか。
「さて、どういう事か説明してもらいましょうか、リックさんズ?」
 ふと気が付くといつのまにやら入り口に立ちふさがったナーガが二人のリックさんをにらんでいる。手には発動寸
前のフリーズアロウなんかが光っているし、目もイっている。こりはあぶない。
 なんとかナーガを落ち着つかせてから事情を聞いてみると、二人は双子の兄弟、という事らしい。とゆーか、見りゃ
わかるんだけど。グロリアさんの方は、かなり前に「もっとでかい事をやってやるんだぁっ!」といってどこかに旅立っ
ていったとのこと。若い頃にありがちな大きな過ち、というやつである。案の定たいした仕事に就けぬまま、チンピラ
まがいの事をやりつつ半年位前にこの町に戻ってきたという。で、リックさんが成功していいるのを見てその上前を
はねようと思い立ち、リックさんになりすましては依頼人に難癖をつけて報酬をぶんどっていた、というわけである。
「そうか、それでみんな僕を嫌い始めたんだな。何て事をしてくれたんだ、兄さん!」
「へっ、出来の良いお前と違ってこうでもしねぇと金なんか手に入らねぇんだよっ!」
 世に言う典型的な逆恨み、というやつである。しかし半年も前からこいつの存在に気づかないとはどーゆー連中
だ、この町の住人は。
 さらに話を聞くと、どうやらその昔同じように家を飛び出した長兄がいるらしい。リックさんには死んだとされていた
様だ。衝撃の事実が次々と明らかになるリックさん。しかし一体何人兄弟なんだか。7つ子なんつーたらその場で埋
めるぞ。
「へっ、シーマ兄貴が来れば、こんなもんじゃすまねーぜっ!」
「そんな…、シーマ兄さんまでがそんな事を…」
「ふっ、そんな三流お茶の間芝居はもういいから、とっとと私たちの報酬をかえしなさいよ!」
「そうだそうだ、それさえ返してくれれば、俺達には関係のない話だからな」
「そうだよ兄さん、ちゃんと返してくれよ。他の人にもだよ」
 三人に囲まれて文句を言われたリックさん二号(グロリアさんと判明)は、ニヒルにふっ、と笑うと
「ふっ、金がありゃあ手付け金までぶんどりに来やしねぇよ。とっくに博打に使っちまったよ」
「・・・という事は?」
 と、彼はやおら勝ち誇った様な顔をして、
「『博打越しの銭は持てない』ってぇ言葉知ってるかい?」
『いばるなあぁぁぁぁぁっ!』
 三人の秘奥技が炸裂したグロリアさんは、奪った分を分割で返すという約束で一命を取り留めた。しかし兄の借
金を立替ないリックさんは、なかなかどーしてやっぱり商人である。グロリアさんも今後はリックさんのところで働くそ
うだがほとんど無給に近いとか。あんたの生活はどうでもいいから借金だけはきっちり返してくれよと、そっと心で応
援する俺だった。


「結局働き損だったわねぇ。おいしい話には気を付けようって、ほんとなのねぇ」
「まぁ多少の手付けだけは残ったんだからいいとしようや」
 あの後、結局リックさんは「兄を連れて帰ります」という事で立ち去ってしまい、約束の夕食にはありつけなかった。
泣く泣く少ない手付けを握りしめ、二人で町の酒場で憂さ晴らしとあいなった訳である。
「あーあ、これでまた金返すのが伸びちまったよ」
「ふっ、何を心配しているかと思えばそんなこと?まだまだ器が小さいわね、クルーズ!」
「ったく、器の心配より人生の心配しろよ、おめーわよ」
「あら、私の華麗な人生に何の心配があるって言うの?おーっほっほっほっ!!」
と、いつもの高笑いを始めたのだが
「いつもいつもその高笑いうるせーぞ、牛ちちねーちゃんっ!」
と回りの酔っぱらいからヤジが飛ぶ。あーあ、その一言言うとどうなるかわからんぞ。と思っていると
「そこのなんでも屋、おめーもだ!飼い主ならきっちりしつけしとけ!」
ぴく。
「なんでも屋ぁぁぁぁ?」
「牛ちちぃぃぃ?しつけぇぇぇぇ?」
がたんっ。二人ともゆらりとその場に立ち上がり、体から異様なオーラを放ちつつ、
「もう一回俺の仕事を言ってみろおぉぉぉぉっ!!」
「もう一回言ってごらんなさいよおぉぉぉぉぉっ!!」
 かくして、わずかながらの収入はいつもの様に酒場の修理代へと変わっていくのである。 結局、俺達がこの町
から出られるのは、まだまだ先の話だ。

                    終わり