特殊なバス
バスはその長い歴史を通事様々な大きさ、形の物がいろいろな材料を用い作られてきた。特にPraetoriusが記した7フィートのバス以来、特別大きなバスを作ろうという試みが数多くなされてきた。この試みは普通のサイズのバスが出す音よりも低い音を出す為になされたのであるが、その構造上、弦の張力上での困難さと共に、非常に扱いにくい巨大バスは実用的ではない物としてまもなく1つの奇形楽器として見捨てられていったのである。
大型のバス
Giltay と、Besseraboffは1636年頃に Mersenneの記した大きなヴィオールについて言及している。これによると、「この楽器の奏者はバスパートを演奏しながらテナーを歌い、さらにこの楽器の中に少年が入り高声部を歌う」という様な楽器が存在したのである。
Dragonetti は Leinster 男爵に8フィート7インチの巨大な3弦バスを献呈している。全長は247p(Kinsky測定)で現在はロンドンのビクトリア・アルバート博物館に所蔵されている。
おそらく最も有名な巨大バスは1849年頃にフランスの楽器製作者 Jean Baptiste Vuillaume により作られた Octobass であろう。このオクトバスは1849年のパリ万国博覧会において賞を受け、後にロンドンでも演奏された。3台作られたとされるオクトバスの内2台は現存しており、1つはパリコンセルバトゥワールに、後1つはサンクトペテルブルクの exczerのコレクションに含まれている。オクトバスの形は普通のバスと変わらないが、全長は実に13フィートにも達する。Vuillaume は、オーケストラの中のバスが、オルガンの32フィート管のC音を出せるようにこの楽器を製作した。3本の弦はC−1,G−1,G−2に調弦され、これらの弦はテコによって操作される7つのブロックにより押さえられる。Sachs は、「弓は棹受けの様なブロックにつるされた状態で動かされる」と述べているが、この楽器の写真や Vuillaume の手になるマニュアルには、その様な装置は見られない。
オクトバスより大きな物には、1899年アメリカ人のJohn Goyer が作り Geiringerに贈った15フィートのバスがある。この楽器の弦や調弦は不明である。もう1つ巨大なバスがアメリカのHarry Burrisによって作られている。彼は、雑誌にのっていたオクトバスを見てそれより大きなバスを作りたいという衝動にかられたとことである。
ドイツの楽器製作者Otto Roth は1905年にシカゴオペラカンパニーの要請により全長4メートル20p、総重量150ポンドの楽器を作っている。
Carseは1844年にAdolf Saxの作ったチェロよオクターブ低いピッチのバスを、VuillaumeやGoyerの巨大楽器と共に述べているが、チェロよりオクターブ低い調弦とすると、普通のバスと同じ音域を受け持つ事となる。よってこの楽器はモンスタークラスの楽器ではないのであろう。
小型バス
様々な製作者や奏者が高いピッチの小さなバスを作ろうと努力した。成功した物もあるが広くは受け入れられなかった。室内楽やソロ意外の目的に置いては、バス奏者や指揮者はその力強さと音量の故に、3/4以上のバスを好む。学校での教育用には1/2や1/4のバスもかなり活用されており、それなりの効果を得ている。これらの小さなバスには、普通のバスと同じ調弦がなされる。
どの考案者の名をとったBarrand bassという楽器は小型で調弦は通常の物と変わらない。初期においては4本の弦の内3本がワイヤー巻であったが、1864年までに4弦ともワイヤーが巻かれ、第4弦は2重巻となった。
Sandys and Forsterがこの楽器について言及しているが、それに依るとチェロやチェンバーバスよりも大きく1820年頃つくられた。かなり一般化下が音楽的な音を生み出す為にその弦には相当の圧力が必要とされるため、まもなく見捨てられていった様である。バランドバスは、John Morrison,Thomas Kennedy,Samuel Gilkes 等により作られたがGilkesの物はかなり大きかったようである。1844年に。Thomas Hancockにより紹介されたBasso di camera はSandys and Forster によるとバランドバスの模倣とされている。この楽器は明らかに室内楽の為に作られたもので、素人のチェロ奏者でもすぐにこの楽器を弾きこなせたという。もともとは4本の弦がヴァイオリンの2オクターブしたに調弦されたのであるが、あまり必要でない為にE線は後に取り除かれた。この楽器の弦については以下に記す。
(1)A−2 大きなチェロのD線、あるいは小型のバスのG線が使われる。
(2)D−2 ノーマルなチェロのC線
(3)G−1 フルサイズバスのG線
ドレスデンのAlfred Stelzner 博士は、室内楽のために他の弓弦楽器と同質の音色を持つバスを作ろうと考え、Celloneと呼ばれる物を含むいくつかの楽器を考案作成した。チェローネの外形は、楕円と放物線を利用した洋梨型である。大きさはフルサイズのチェロより僅かにおおきく、調弦はその4度下でG−1,D−2,A−2,D−3である。Groveの音楽事典には「この楽器は力強く音量もあり、統一性のある音質を持つ」と述べられている。Heron Allenは洋梨型の、即ち上胴は狭く下胴は広がった形のヴァイオリンについて述べている。NBC、デトロイト響のバス奏者Philip Sklarはヴァイオリンコーナーを持つ以外は前記洋梨型のバスを自ら製作し、用いていた。NBC響の同僚達は「個人的にはその楽器を好まないがSklarの手にかかると素晴らしい音色と力強さを出した」と述べている。