弦と調弦
コントラバスの弦の数及び調弦の仕方は近年まで種々雑多であった。これは作曲者がコントラバスに独立したパートを持たせなかった事と、この楽器の最低音を決定することに対する無頓着さによるものである。2世紀以上に渡ってコントラバスの調弦はその祖先たるVioloneの様に演奏者の自由に任されていた。Carseは「17〜18世紀のコントラバスのチューニングは楽器の大きさや弦の数によってことなり、それは奏者の趣味・習慣・国民性に依っていた。」と述べている。
6弦であったViolone,5弦であったgross quint bass 及び violn de gamba sub−bassは4弦あるいは3弦に改造された。ドイツにおいてコントラバスは通常5弦4度調弦であり、第5弦を除くとE−2,A−2,D−3,G−3に調弦される。Sachsは「3弦にしたのはイタリア人である。」としているが、Warneckeは「3弦のバスはフランスで発生し、後にイギリス、イタリア、スペインに伝わった。」としている。(ドイツにおいては、コントラバスが3弦になることは無かったようで、4弦(5弦)4度調弦がずっと中心であった。)
3弦バス
ドラゴネッティは3弦バスを好み、彼の使用した有名なda Saloのバスも3弦である。ベートーヴェンもこの楽器の為の曲を作ったと言われ、大きさは現在のバスより少し小さいが、力強く、甘い音色を有し、高音はチェロの様であったという。3弦バスの広まった主な理由は、その力強い音の為であろうと思われるが、ドラゴネッティが彼のダサロから出した音量は信じがたいものであったようだ。
3弦バスは通常のものより軽く、細い弦を備えており、19世紀末までソロ奏者の愛好を受け、又、スペインやイタリアの音楽学校においてもバスの教育にこの3弦バスが用いられた。
調弦については古いフランスではGDAという5度に調弦されていたが、、Warnecke,White,Ruhlmannは、4度のADGであったとしている。Whiteはこの4度調弦はイギリスやイタリアで用いられた物とし、Warneckeはスペインから伝わった物としている。(しかし、スペインのコントラバシストAnton Torelloはソロの時GDAの5度調弦を用いている。)一般的でない物であるがGDGという4度と5度の混じった調弦も存在した。Carseはドラゴネッティは5度調弦を用いたとするが、Whiteによるとドラゴネッティはオーケストラの中では最低音がAの4度調弦を用いたとしており、又、この調弦はイギリスで標準的に用いられた物とも述べている。ボッテジーニはソロの場合、今日と同じオーケストラより長2度高いHEAを用い、又1837年ロンドンフィルに於いて、Angoloisが協奏曲用に用いた調弦はこれよりさらに高いDGCであった。
なお、イタリアのコントラバスのエチュードは1823年Ricordiから出版されたBonifozio Osioli著のElements for Contrabassという3弦バスの教則本に基づくものであり、又、1845年同社出版のLuigi Rossi著の教則本もOsioliのエチュードを基本にしている。その他BottesiniのMethode de Contrabasseという3弦バスのエチュードも同様である。
4弦バス
3弦バスは素晴らしい響き、力強い音色を有していたが、その音域の狭さはやはり致命的な欠点であった。オーケストラにおいて一番低いG等は3弦であるとオクターブ挙げて演奏しなければならなかったのである。従って昔から「4弦バスが主流であったドイツ」以外の国においても3弦バスは次第に廃れてゆき、1820年頃にはパリのオーケストラでも4弦バスが使われるようになった。パリ音楽院初代のバスの教授Chenierの没した1832年以後、同音楽院では3弦バスの教育は行われなくなったのである。そして、彼の後を継いだLamy(継いだ数ヶ月後に没す。)やNacies Chaft(〜1852年)により4弦バスの教育が行われた。Warneckeによると、イタリアにおいても1860年頃までに3弦バスから4弦バスへの移行がなされたのである。しかし、ボッテジーニは第4弦を加えることに抵抗し、彼の Methode de Contrabasse の中で「弦の数を増せばます程バスの音は悪くなる。」と述べている。
イギリスのコントラバシスト A.C.Whiteは1887年に行った講演に於いて「私はイギリスで初めてバスの音域を拡げる為にA線をG線に下げた。近代ドイツやフランスの音楽を演奏するには第4弦が絶対に必要であり、最低音がEであっても多くの作品にとってそれは充分なものではないのである。従ってD−2,G−2,D−3,G−3という調弦を用いる。このD−2弦は素晴らしい物で、自信の音に加え、D−3弦も共鳴し、振動する。」と述べた。このWhiteの調弦に似た物で、最低音をC−2とするものもあったが、これらは4度と5度との混じった物である。
Bille著のNuova Methodo per ContrabassoにはPizettiの用いた完全な5度調弦C−2,G−2,D−3,A−3が載っている。この本には「このように調弦されたバスは朗々とした豊かな響きを産み、音響的にも完璧なものである。」と述べられている。