構造・材質
コントラバスの構造について、それは主に楽器製作者達が関わる分野であったために、これについての文献は極めて乏しい。ただJalobecのみがフラットバックバスの外形についての記述を残しており、貴重な資料といえよう。このように資料に頼ることは出来ないので、コントラバスの構造に関する歴史的分析は大きく次の3点に基づく事になる。
(1)楽器自体
(2)現代の製作者によってもたらされるもの
(3)コントラバスにもあてはまるであろうと思われるヴァイオリン製造に関する原則
Heron−Allenはヴァイオリンの構造について、それを70の部分に分割し説明している。(但し製作者達はそれぞれ異なった方法で楽器を作るため、それは近似知的な物である。)
コントラバスの場合、楽器が大きな為これより多くの部品によって成り立っている。例えばヴァイオリンの裏板は通常2枚の板により作られているが、これを1枚板で作られることもある。しかしコントラバスの場合、充分大きな板がないために1枚板からなる裏板はほとんどなく、逆に4枚の板により出来ている裏板は珍しいものではないのだ。(例外としてBrecian派のコントラバスでFlamed Mapleの一枚板で出来た裏板を持つ物が存在している。)
又、ヴァイオリンをそのまま何倍かに拡大すればコントラバスになる、というものでもない。寸法の比率で考えると、ヴァイオリンのネック、表板、裏板はコントラバスのそれよりもずっと幅広く、反対に横板はコントラバスのそれより遙かに薄いのである。又、3/4サイズのコントラバスの胴の長さは4/4のヴァイオリンのそれの3倍以上の長さがあるが、表板の厚みはヴァイオリンの2倍程度しかない。さらにコントラバスの横板の深さはヴァイオリンの6倍もあるが、その厚みは3倍程度しかないのだ。
(上の写真はミラノスカラ座首席コントラバス奏者エツィオ・ペデルツァーニ氏と氏所有の名器、サンタ・ジュリアナです。)
横板
コントラバスの横板はヴァイオリンのそれと相当に異なった構造を示しており、コントラバスの構造の研究の第一歩として最も入りやすい物であろう。
Besseraboffも「あらゆる種類のViolの中で最も目立つのはその深い横いたであり、それはヴァイオリンの物よりも薄く楓材から出来ている。」と述べている。古い種類のバスはViolの様に横板と、表板、裏板のエッジが同一の高さに合わせられ、又、ヴァイオリンの様に楽器の内側から裏打ちがなされていた。横板の表側からも裏打ちのようなライニングを施して固定する方法は構成のものであり、今日、特にドイツではこのような形で製作された物が多いのであるが、古い楽器にはめったに見られない型である。この三重にかさねられたrib edgeによって、コントラバスは、大きな楽器にとって不可欠な要素である堅牢さを保っているのである。
コントラバスの横板は比較的薄く、従って小さなヴァイオリン等に比べコントラバスの横板の破損はよく生ずるのである。実際に古いコントラバスには必ずといってよい程、割れ目、つぎや、裂け目を修復するための、糊付けされたモスリン等が見受けられる。
横板の材質
裏板やネックと同様に、横板にも一般に楓材(スプルース)が用いられている。横板用の木はSur Maille法という切り取り方(ちょうど丸いケーキをカットするような形)が使われる。このような取り方を用いるとスラブカット(Layer Cut, Sur Couch法)よりも密で綺麗な木目が得られ、強くゆがみの少ない横板が出来るのである。
コントラバスの横板は1/8インチ程の暑さで、高熱の鉄によって曲げられ形ができる。また深さは7.5〜10インチほどである。Echlinは、ある程度以上、横板を深くしすぎた場合、その深さを増しても楽器の音色や音量を変えることはできない、としている。
表板と裏板をつなぐという横板の第1の目的以外の、その役割については、数多くの異なった見解が見受けられる。Heron Allenは「楽器の腹部の振動を裏板に伝えるという大きな役割を横板は果たしている。」と述べ、Francois Fetisは「ヴァイオリンによって出される音の強さは楽器内に含まれる空気の量による物であり、またそれは他の要因とも強く関連試合う。」としている。この二人の考えは、音と木の共鳴と、楽器と空気の量との関係を決定づけようとしたSavartの実験とその結果に基づくものである。しかしGiltayは彼等に反対し、「裏板の振動は多分に魂柱による物であって、この際、横板や楽器内の空気の量は大した要因とはならない。」としている。