気になる X年後の |
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【はじめに】 日本には、移入種・外来種として定着した生き物が何種かあります。ごぞんじ食用ガエルやアメリカザリガニなど、 政府公認?で大量に放された場合、一気に棲息域を拡大することは想像に難くありません。 しかし、外国産のクワガタやカブトはせいぜいマニアの扱うレアな生き物であって、ごく少数が山野に逃げたからと いって膨大な数の在来種の優位は揺るがず、ほどなく淘汰され生態系にとってさしたる影響はないのでは? という見方があるのもうなずけます。 さらに、在来種を完全に駆逐してしまうのか?あるいは共存できるのか? このへんの曖昧さ、予測の困難さが 楽観論・悲観論の両視点を生む原因かもしれません。 最大公約数的な見解として、「放虫はマナーの問題である」とよく言われます。最終的には確かにそうなのですが なるべく数字的な予測というか、具体論で語ることができないだろうか・・・と。 今回はかなり強引な展開であることを承知の上で、シミュレーションによる「可能性のある数字」をもとに、 「どんなことが、どの程度行われると、何年後に、どうなるのか?」という点について考えたいと思います。 |
@1ペアのクワガタはどう増えていく? あるクワガタ(国産でも外国産でもよい)の♂と♀(1ペア)を飼育したとします。 昨今は飼育技術が確立されていますから、よほどブリードが困難な種を除いて 誰でも順調に累代を重ねていくことができます。 ここで、計算を単純化するために次のような条件を与えてみます。 @1ペアが1シーズンに産卵して誕生した幼虫のうち、10個体が次世代(F1)の 成虫になるものとする。 A成虫のうちオスとメスの比率は、1:1とする。 B温室環境で約1年で羽化。成熟期間を経て、メスは孵化から2年目に産卵する。 Cメスは2シーズン続けて産卵をして死亡するものとする。 すると、飼育開始後の個体数は、右の表のように増加していきます。 仮に10ペア飼育する場合は、この数値を10倍すればいいわけです。 自力で飼育が困難になった分は、いわゆる「余品」とか「里子」という形で 引き取られたり、稀には放虫問題の当事者になる可能性もあります。 要は、自分の手を離れても全国の愛好者のあいだで増え続けていくわけで、 クワカブ趣味の裾野が広がり、市民権を獲得していくという好ましい状況のなか、 この現実をどう意識し、どう捉えるかです。 開発などにより自然環境が激減していくのに対して、全国の家の中には、 飼育ビンと温室という「良好で新しい環境」がどんどん作り出されているわけです。 |
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A外国産のクワガタはどのくらいいる? ある統計によると、2001年の1年間で外国産カブトムシが約31万個体、 外国産クワガタは約36万個体輸入されたそうです。 では、外国産クワガタに限って考えてみましょう。 36万個体のうち7割が購入されブリードされているとすると、その数は、 360000×0.7=252000個体です。 だいたいペアで購入しますから、126000ペアということになりますか。 これを@の表に当てはめて掛け算しますと、右の表のように増えていくことになります。 1年間の輸入個体数に限って考えても、9年後には、9億1350万個体に増加する ことが予想されます。すごいですね。日本の人口は、約1億2千万です。 国民一人当たり、平均8個体も飼育している計算です。 また約4600万世帯あるので、1世帯当たり約20個体飼育していることになります。 願わくば、犬や猫のように世代や性別を超えたポピュラーなペットに昇格していれば 問題はないのですが・・・。 実際には、新規ブリーダー数も徐々に頭打ちになり、また交尾を自粛する人も増えるので 大丈夫、と楽観視できるかもしれませんが、少なくとも今後数年間は、諸事情で飼育できなく なったり飽きてしまったりで、「殺すのもかわいそうだから林に逃がしてやろう」というケースも 徐々に増えていくことは間違いありません。 ヤマトさんのHPコンテンツ「森へ放すの?ちょっと待った!」を読むと、飼育していた虫を 自然に帰すことは決して虫を救うことにはならない、ということがよくわかります。 |
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B自然界のクワガタの累代サイクルは? まず、住宅地に囲まれた野球場ほどの雑木林を想定します。 越冬タイプのコクワやヒラタの累代は、@の表を3年サイクルにすればいいのですが 自然界は飼育環境と違い成虫になる生存率が低く、爆発的に増えることはありません。 ここでは話を単純化するために、この雑木林はノコギリクワガタだけが棲息しているものとし、 その個体数(成虫)は、100とします。 また、生態系が安定していて毎年、100より減ることもなく増えることもないものとします。 人間の採集圧は無視します。この林のノコはいったいどんなサイクルで世代交代を 行っているのでしょうか? 大雑把に言うと右表のようになっていると思われます。 温室ではなく屋外ですので、世代交代の期間は3年とみていいでしょう(右図の黄色)。 仮に2003年夏にノコを乱獲すると2006年夏にグンと減ってしまいますが、赤・緑のグループ のローテーションで生き残るので絶滅はしません。 が、3年間乱獲が続くとちょっと致命的です。 また、3年後に同数の成虫が見られるということは、50頭の♀から100頭成虫が誕生 することになります。1頭の♀につき2頭の成虫です。仮に♀1頭あたり平均10個産卵 したとすると成虫までの生存率は2割という計算になります。 |
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Cもし外国産のクワガタが放されたら? 仮に、たった1頭の外国産(仮にAとする)が、Bのようなノコ100頭だけの雑木林に放されたと します。もちろん、日本の気候に適応できる種であるとします。 この個体は、下表の6タイプのうちいずれかのはずです。
「たった一匹ぐらいいいじゃん」という考えは危険でしょう。 では、上表のDのケース、つまり「日本産との間に繁殖能力を持たない♀が 1頭だけ雑木林に放された場合」にどうなるか考えてみたいと思います。 【シミュレーションの条件】 @外国産Aは越冬タイプとし、その次世代生存率はノコと同じように、2割(10個産卵して 2頭成虫になる)とする。 Aこの雑木林におけるクワガタのキャパシティは、100頭を限界とする。 B外国産Aとノコの縄張り争いにおいては、外国産Aが勝つものとする。 (ここでは「外国産が1頭増えるとノコが1頭減る」ものとして計算) |
【シミュレーション結果@】
外国産個体の増加とノコ個体数の減少を折れ線グラフで表しました。
放虫されてから20年後(21年目)に個体数が入れ替わっています。
なお、もし現実に雑木林でこの事態が進行した場合、ノコと外国産Aは交雑種を作らないため見分けがつきますので、
両種の数のカウントは容易です。しかし、外国産ヒラタと国産ヒラタのように交雑種ができる場合は、代を重ねるごとに
見分けがつかなくなり、DNA鑑定でもしない限り、人間の目には何がどうなっているのか見当もつかないでしょう。
そのうち、ひとつの雑種が出来上がるのでしょうけれど。
【シミュレーション結果A】
次に条件を変え、「日本産との間に繁殖能力を持たない♀が、2頭雑木林に放された場合」を示します。
放虫から10年後(11年目)に、両種の個体数が逆転しました。12年目には、ノコはこの林からほぼ姿を消すという
悲しい予測になりました。
【まとめ】
以上、特殊な条件でのシミュレーションでしたが、コクワ、ヒラタ、その他複数の国産種が棲息している場合、
外国産Aの生態と似た種から順に影響がでることは間違いないでしょう。
幼虫の棲息場所、成虫の活動時期、適正気温、隠れ場所など、競合する要素はかなり多そうです。
また、都市近辺では宅地開発などで棲息環境そのものが消えてしまうことも多く、現実的に放虫に気づいても
結果的には何もなかったかのようにリセットされるだけ、ということも多いのではないでしょうか。
むしろ、より自然度の高い地域(山地・丘陵地など)や保護地域(国立公園など)で大量に外国産が放虫された場合、
「気がついたら膨大な数に増えていて手遅れだった」ということになる危険性が大きいと思います。