この部屋では、私がここ数年のうちに読んだ本(再読・三読、それ以上を含む(^_^;))の中で特に感銘を受けたもの――ファンタジー文学に限りません――を紹介していきます。とはいいながら、そもそも公開するほどの読書量を誇っているわけでもありませんし、基本的に個人の読書メモのようなものに過ぎないとお考えいただいたほうがよいかと思います。
むしろ、「他にもこんな本があるよ」と教えていただけるのを期待しているというのが本音だったりするのです…。
最新は2007年2月21日更新 上橋菜穂子の『天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編』
配列は、作者名(姓)の五十音順です。
書名 | 著者名 | 出版社名 | 感想など |
モリー先生との火曜日 | ミッチ・アルボム | NHK出版 | 生きること、死ぬこと…深く考えさせられます。 |
大河の一滴 | 五木寛之 | 幻冬舎 | 作者の人生観に心打たれます。 |
精霊の守り人 | 上橋菜穂子 | 偕成社 | 巧みな世界づくりに感嘆。作者は「文化人類学」を専攻していたとのことで、その知識が十二分に生かされています。 2006年11月、使用漢字の数を増やして年長者にも読みやすくなった軽装版が出ました。今から読むならそちらがお薦め。 |
闇の守り人 | 上橋菜穂子 | 偕成社 | 個人的には「守り人」3部作の白眉であると思っています。 そう感じるのは私だけでなく、どうやら年配の読者にはこの作品をシリーズ最高の出来と評価する向きが多いようです。 上と同じく、2006年11月に軽装版が出ました。 |
夢の守り人 | 上橋菜穂子 | 偕成社 | 「温かみ」に溢れる読後感。一応、3部作ということになっていて、この巻で一区切りとなりました。しかし、ぜひとも続編を書いてほしいシリーズです。 |
虚空の旅人 | 上橋菜穂子 | 偕成社 | 上に掲げた「守り人」3部作の外伝に位置する作品。一応の主人公は、「精霊」「夢」に登場した新ヨゴ皇国の皇太子チャグム。今後、彼の成長を描くシリーズが書き継がれていくことを期待させるに十分な出来栄えです。 |
神の守り人 | 上橋菜穂子 | 偕成社 |
「来訪編」と「帰還編」の2冊に分かれた長編。これまでの3部作(今後は、勝手に「初期3部作」と呼ぶことにします)とは、明らかに方向性が違ってきているように思えます。外伝であったはずの「虚空の旅人」との整合性を重視したつくりから、今後の展開が仄見えてきているように思います。 それはともかくとして、非常によくできた作品であるのは間違いありません。バルサたちとは長いつきあいになりそうです。 |
天と地の守り人 第一部 ロタ王国編 | 上橋菜穂子 | 偕成社 | 「守り人」シリーズ最終章とされる三部作の第1部。 当然、この1作だけで完結しているわけではなく、三部作全部を読み終えるまで何も語るべきではないとは思うのですが、この第一部を読んだだけでシリーズの締め括りを飾るにふさわしい作品であると直感してしまいました。 ただし、直接的には「蒼路の旅人」に続く話となっているうえ、これまでの「守り人」「旅人」シリーズに登場した主要な人物たちが次々と物語に絡んでくるため、既刊の内容を全て把握しておかないと、ストーリーを楽しむことは不可能。その意味では、やや敷居の高い作品といえるかもしれません。(私も全作を読み返そうと考えています。) (2006年11月23日) |
天と地の守り人 第二部 カンバル王国編 | 上橋 菜穂子 | 偕成社 |
おもしろさ、ますます加速。残る課題は「着地」だけですが、この作家の力量ならば心配は無用でしょう。 文句なしの力作。 (2007年2月13日) |
天と地の守り人 第三部 新ヨゴ皇国編 | 上橋 菜穂子 | 偕成社 |
とうとう完結してしまった。 これが現在の正直な感想。 読み終えるのが惜しいと思った作品は実に久しぶり。 戦闘シーンが、某3部作映画のそれのイメージと重なってしまわざるを得なかったのだけが残念ですが、後は文句なし。 私に生きるバルサ。公に生きるチャグム。 それぞれの姿に深い感動を覚えさせられました。 作者が「これしか思いつかなかった」というラストも余韻に溢れています。
このシリーズに関しては、いずれ別のところできちんとした感想をまとめてみたいと思っています。 |
獣の奏者 | 上橋 菜穂子 | 講談社 |
相変わらず巧みな設定と魅力的な登場人物たち。たった2冊で終わってしまうのがもったいないとまで思いました。しかし、見方を変えれば、これだけの作品を2冊にまとめきったあたりが凄いとも言えるのでしょう。 ちなみに、最近の上橋菜穂子は、「性」というものを敢えて前面に押し出し、それを作品の中できちんと描こうとしているように思えます。「狐笛のかなた」あたりではほのかにその香りが漂っていただけだったのですが…。 (2007年2月13日) |
モモ | ミヒャエル・エンデ | 岩波書店 | 私などが申し上げることはないでしょう。 |
しばわんこの和のこころ | 川浦良枝 | 白泉社 | こんな形の歳時記もありなんだと納得させられた絵本。主人公「しばわんこ」と相棒「みけにゃんこ」のやりとりにほのぼのさせられながら、なんだか賢くなった気分を味わえます。 |
銀河のワールドカップ | 川端裕人 | 集英社 |
ワールドカップ開催年に合わせて出版された以上、便乗本と勘違いされてしまいそうな作品ではある。だが、文句なく面白い。サッカーに詳しくなくても十分に楽しめる。 描かれているのは少年サッカーの世界。魅力的な少年たち――というより悪ガキたちが多数登場する。しかし、主役は飽くまでも彼らをコーチすることになる、わけありの男。少年スポーツの指導者などがよく口にする「 ひとりはみんなのために、みんなはひとりのために」なんてスローガンに胡散臭さを感じてならなかった私にとっては、思わず快哉を叫びたくなる一作。 (2006年6月12日) |
日曜日の夕刊 | 重松清 | 毎日新聞社 | 語り口の妙。ほんとうに上手い。 |
この国のかたち | 司馬遼太郎 | 文藝春秋 | 抜群の知識と探究心。 |
図書館の神様 | 瀬尾まいこ | マガジンハウス |
ここ最近いろいろな場所で評価の高い作者の作品ということで読んでみました。 1時間半ほどで読めてしまうぐらいの短さですが、なんともいえない爽やかな読後感を味わえました。 主人公と「垣内くん」がグラウンドを走り回るシーンが印象的。 そして、最後の最後に「登場」する山本三智子なる人物の言葉がとてつもなく重い。 主人公も、「垣内くん」も、主人公の弟も、何かしら心の傷を抱えている。 考えてみれば、というか考えるまでもなく、人間、誰だって大なり小なり、トラウマがあったり、すねに傷があったりするもの。 そういうものを克服していくには妙に気張っちゃいけないのかもしれない、なんて思わされました。 |
卵の緒 | 瀬尾まいこ | マガジンハウス | 表題作「卵の緒」と「7’s blood」の2編が収録されています。 この2編は全く逆のシチュエーション設定がなされていながら、どちらも家族の繋がりが描かれています。というよりも、敢えてそういう設定を選んで、ひとつのテーマをふたつの作品に仕立て上げて見せたといったところかもしれません。 後者のラストはとても心に響きました。 ほんと、読ませてくれます。 |
温室デイズ | 瀬尾まいこ | 角川書店 |
いじめ、学級崩壊、校内暴力…。こうした問題を取り上げた作品は、フィクション、ノンフィクションを問わず多くあります。 この作品にもそうした内容ががこれでもかというほどに描かれています。にもかかわらずこの読後感は何なのでしょう。読み終えた今、不思議な感覚にとらわれている自分がいます。 (2006年8月8日) |
カモメに飛ぶことを教えた猫 | ルイス・セプルベダ | 白水社 | 「飛ぶことができるのは、心の底からそうしたいと願った者が、全力で挑戦したときだけだ」 ここまで分かりやすい寓話を描かれてしまうと、もはや脱帽するしかありません。 |
時計坂の家 | 高楼方子 | リブリオ出版 | ファンタジーの定番的な物語づくりの中に、きらりと光るものがある、そんな作品です。 ミステリーとしても十分に楽しめます。 クライマックスはドキドキものでした。 さりげなくC・S・ルイスの「ナルニア」の小道具を使っているところも心憎い。 |
霧の灯台 | 竹下文子 | 偕成社 | 児童向け図書「黒ねこサンゴロウ」シリーズの第5巻にあたるエピソード。全10作に及ぶこのシリーズ中でも、私の最も好きな話のひとつ。感傷に浸れます。 |
青春の譜 ZOO | 辻仁成 | 幻冬舎文庫 | エコーズ時代を含む辻仁成の曲の「歌詞集」です。 2000年7月から放送されたTVドラマに便乗した企画だとは思いますけれど、改めて「詩」として読んでみると、やはりひとつひとつの言葉に魂を感じます。 |
白仏 | 辻仁成 | 文藝春秋 | こういう「純愛」が成り立ちうるのかと、ショックを受けました…。 |
どろろ | 手塚治虫 | 秋田書店 | 例外的ですが、もちろんマンガ。私にとっては「魂の救済の書」の位置を占めています。 |
永遠の仔 | 天童荒太 | 幻冬舎 | この作品を「長過ぎる」と批判した方(なんでも、とある文学賞選考委員の錚々たる面々とか…)がいらっしゃるようですが、どうかなさってますよ、ほんとうに。 |
新潮文庫版 家族狩り5部作 | 天童荒太 | 新潮社 |
一応ミステリという範疇に分類される作品なのでしょうが、作者のとてつもない情熱を感じる力作。原稿用紙2200枚という長さも一切苦になりません。 ちなみにこれはハードカバー単行本として1995年に出版された同名作品の単なる文庫化ではないそうです。是非とも単行本版(著者は便宜上「1995年版」と呼んでいた)も読んでみたいと思 います。 |
指輪物語 | J・R・R・トールキン | 評論社 | まさに我がバイブル。 時折「指輪物語はファンタジーの基本だ」などという評がありますが、それを目にするたび「ほんとに読んだの?」などと言いたくなってしまいます。少なくとも基本じゃありません、私にとっては。 |
裏庭 | 梨木香歩 | 理論社 | 三世代にわたる濃密な物語。なんともいえない読後感を味わえます。 |
西の魔女が死んだ | 梨木香歩 | 小学館 | 『裏庭』以上に不思議な読後感のある作品。どこがいいとは説明できないのですが、心に沁みます。 |
子供たちの時間 | 橋口譲二 | 小学館 | 著者が日本全国を取材して回り、そこで出会った小学6年生たちを撮影したモノクロ写真集。4年近くの歳月をかけて一冊の本にまとめられた労作です。 まずは写真をじっくりと眺め、その後、それぞれの子供たちに対するインタビューを読んでみると、じわっと心に沁みてくるものがあります。 巻末に付された著者の言葉にも抜群の説得力があり、もう一度写真を見直さないと気が済まなくなるはずです。 |
晴れた空 | 半村良 | 集英社 | 第二次大戦後の混乱期を生き抜いた戦災孤児たちの姿を描いた作品。 単行本の帯には「昭和大河ロマン」と記されています。 下巻の帯に載せられている「あの時代が僕の故郷なんですよ。多少美化して、自分の故郷を書いただけなんです。」という著者自身の言葉が印象深い。 後半になるにしたがって叙述が淡白になってしまうきらいはあるものの、ラストの一文には泣かされました。 1970年代後半から1990年代にかけて、かなり長く半村良にハマっていた時期があったのですが、この作品を読むことでその理由のひとつが理解できた気がしました。 「国家」とはどんなものなのか。主人公たちの行動を通して、それが非常に分かりやすく描かれているのです。 「国」と「国家」の違いなど考えもしなかった私にとっては目から鱗の一冊でした。(とはいえ、それがテーマの作品というわけではないのですが。) |
岬一郎の抵抗 | 半村良 | 毎日新聞社 | 半村SFの最高傑作のひとつ。もちろん、同じ著者の『産霊山秘録』や『妖星伝』も好きでした…。 現在は集英社文庫所収。ただ、入手はかなり難しくなっている模様。 2005年6月、再読。 やはりとてつもなく面白かった。 SFとしてだけでなく、人情話としても政治小説としても読ませます。 ところで、ラストの一文があんなに読者を突き放した内容であったことに驚いてしまいました。 初読のときには全く引っかからなかったのに…。 こういうことがあるから、同じ本でも時間を置いて再読してみる価値があるというものです。 |
妖星伝 | 半村良 | 講談社 (現在は祥伝社文庫に所収) |
2005年のゴールデンウィーク、十数年ぶりに再読。 改めてこの作品の凄さを思い知らされました。 まさに伝奇小説の雄編。 本当は新たにコンテンツを作って語るべきだと思うほどなのですが、逆に私などが何か語ろうというのはおこがましいような気さえしています。 この作品、かなり過激な性描写が含まれているために、ポルノグラフィー扱いする向きもあるようです。 しかし、全編を読み通せば、それが筆者が描こうとしたテーマを語るための必然であったことが分かるはず。 未読の方には是非ともご一読をお薦めしたいと思います。
これほどの作家の、これほどの作品が簡単には読みにくくなってしまっている現状にはたまらない哀しみを覚えます。 |
トムは真夜中の庭で | フィリパ・ピアス | 岩波書店 | クライマックス部分、不覚にも涙が出ました。 |
もの食う人びと | 辺見庸 | 共同通信社 | 読了直後「すべての日本人がこの本を読むべきだ」なんて考えてしまったことを思い出します。現在は角川文庫所収。 |
童話物語 |
向山貴彦・著 宮山香里・絵 |
幻冬舎文庫 |
日本人作家による本格的なファンタジー小説。しっかりした世界観のうえに成り立っています。 物語のごく初期に主人公のとる、およそ主人公らしからぬ行動に慄然とさせられましたが、読み進めていくうちにそれも必然であったことが納得できました。続編を期待したい作品です。 なお、私が読んだのは、1999年に出版された単行本を改訂して2001年7月に全2巻の文庫として出版されたものです。 |
子どもとファンタジー | 守屋慶子 | 新曜社 | 心理学の本。 シルヴァスタインの「大きな木」をテキストにして興味深い考察がなされています。読んだときは目からうろこが落ちる思いでした。 |
こわれた腕環 | アーシュラ・K・ ル=グウィン |
岩波書店 | ご存知、「ゲド戦記」シリーズの第2部にあたる作品。もちろん、4部作全体で評価をするべきでしょうが、個人的にはこのエピソードが最も好きです。 |
帰還 | アーシュラ・K・ ル=グウィン |
岩波書店 | 「ゲド戦記」シリーズ第4部で、日本では「ゲド戦記最後の書」と副題がつけられています。前3作から10年以上の歳月を経て発表されました。 それまでとは明らかに目指す方向が違うように感じました。 でも、思わず唸らされるシーンが続出するんです。 …って、結局テナーが出てくる作品を選んでるだけですがな。 |